そんなバッハ氏。先日の会合で「ジャパニーズ」を「チャイニーズ」と言い間違える一幕がありました。個人的には、そこにアジアや黄色人種に対する彼なりの様々な思い込みがあったにせよ、単なる言い間違いに過ぎないと感じましたが、SNSでの炎上に端を発し、マスコミも一斉に「日本人の感情を逆撫でする発言」「痛恨の失言」などと報道。あたかも「日本人」と「中国人」を間違えることは非礼だという論調が当たり前のように飛び交う事態に。ある政治家は「それが彼の本音なのでは?」と皮肉っていたりもするのですが、実に気味が悪い。仮にそれが「本音」だったとしたら何故ダメなのか?

 確かにバッハ氏は「日本人」と「中国人」を言い間違えました。しかし、それを「失言」とすることで、「中国人は日本人より下である」という“本音”を晒してしまったのは、ほかでもない日本人の方ではないでしょうか。これがもし「アメリカ人」と言い間違えていたのなら、ここまで事は大きくならなかったはず。そう思うと、改めて潜在的な蔑視というのは怖いものだと痛感した次第です。

 欧米などでは、アジア人を指して「チャイニーズ!」と揶揄(やゆ)する悪しき習慣が昔からあります。しかし裏を返せば、それだけ中国という国の存在感が普遍的に大きい証しでもあるわけです。そして日本には日本ならではの中国に対する国民感情がいろいろとありますが、それらをごちゃ混ぜにして、他人の「言い間違い」に勝手な解釈を付け非難した結果、それが差別や蔑視になっていては世話がない。こんなことでバッハ氏にも中国にも同情したくなかったわ。

ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する

週刊朝日  2021年7月30日号

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