ミッツ・マングローブ
ミッツ・マングローブ
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 ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は、IOCバッハ会長について。

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 今年の初めまでは「さすがに無理だろう」と思っていた五輪開催も、あれよあれよという間に「やる」運びとなり、「やるとしたって無観客」が当然とばかり思っていたのが、まさかこんなにも拗(こじ)れるとは。『いだてん』を観ていた頃が懐かしい。

 さて、一向に開会ムードとは程遠い中、この五輪狂騒のラスボスとも言えるIOCバッハ会長が来日しました。IOC(国際オリンピック委員会)会長と言えば、先々代のサマランチ会長や、8年前のIOC総会で2020年大会開催地を「TOKYO!」と発表した先代ロゲ会長など、日本人にも広く親しまれた存在だったはずが一転、バッハ現会長に対する風当たりたるや、このまま行くと日本人にとってのバッハは「音楽の父」ではなく「五輪の親分」になってしまいそうな勢いです。

 とりあえず欧米人であれば誰でも歓迎してきた日本人ですが、今回ばかりは「帰れ!」と叫ぶ人たちが続出している様子。かつてこれほどまで日本人に忌避された白人がいたでしょうか。本来「帰れコール」は、あらゆる抵抗手段の中でも最も雑で稚拙なものです。しかし、それぐらい雑な手段に訴えるしかない状況であるという言い分も理解できます。いずれにせよ、どんな逆風も耐え凌げる図太い神経と、達成すべき利益の追求に邁進できる人でないと、IOC会長なんて役職は務まらないのだということだけは分かりました。その裏にとてつもない強権が秘められているからこそ、ひたすら無神経に見える言動に終始できるのでしょう。

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