作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は、「国際感覚」について。
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日本は外圧に弱い、と言われてきた。特に性に関して外圧は効いてきた。
たとえば、明治時代の公娼制度が最初に問題になったのは、人身売買に関する外圧があったからだった。結果、女性を家畜のように売り買いしてはならない法律ができて、女性自らが「自由意思」で働くのだと設定されたが(1982<明治5>年)、結局それも国外向けの建前にすぎず、女性たちの苦難は戦後、GHQが公娼制度廃止を決めるまで続いた。
公娼制度は実際に「外圧」が働いた例だが、外圧がなくても、「外圧風」を感じることで動いた例はいくつもある。例えば2019年、ほぼ全てのコンビニから消えたエロ本も、五輪という外圧が大きかった。男性の射精用雑誌が堂々と24時間どこにでも売られている国は日本くらいだよ! という批判は長年国内の声としてあったが聞き入れられず、五輪を翌年に控えた年に渋々という形でコンビニからエロ本がなくなったのだ。
また、2019年に大阪で開催されたサミット期間中、飛田新地が一斉休業したのは、あからさまだった。飛田新地は無数に並ぶ古い日本家屋の入り口に、強い照明を当てられた女性が一人座布団に座って、まるで商品のように陳列されている巨大な買春街だ。海外から「閉じろ」という要求があったというより、事前に空気を読んで閉じた可能性は高い。
日本で女性として生きていると、「国際社会頼み」というような気分になることが少なくない。国内で、「少女との真摯な恋愛はある」とかいう中年男性に、それ、国際舞台で主張できる?と問いたくもなる。例えば2年前、オーストラリアの税関で児童ポルノを保存していたスマホの所持で日本人男性が摘発された。オーストラリアでは日本では合法とされる二次元ポルノや、着衣の児童が性的なポーズを取るような表現物であっても児童ポルノと認定され、最長で10年の禁錮刑、日本円で数千万円の罰金が科されることもある。日本の性の景色が、女性や子どもたちの人権を犠牲にしたものである現実を、私たちはもっと知るべきだと思う。