それでも、肉を切らせて骨を絶つこの戦法が、岩渕真奈の同点ゴールにつながったのは事実だが、その代償も大きかった。続く第2戦では、メンバーを半数近く入れ替え。戦術的な要素もあったが、大会全体を見据えての采配だ。新たに先発した面々はそれぞれ、力を発揮したが、初戦を終えた段階でのイギリスとの余力差は大きく、後半の頭の時間帯を過ぎたあたりから、攻勢の限界点に達してしまう。
イギリスのクロス攻撃の連続に流れを断ち切れず、最終ラインが低い位置にはり付けられた日本は、結局、最も警戒していたエレン・ホワイトにゴールを奪われ、敗れた。カナダから勝ち点1をもぎ取るのに必死になった結果、イギリス戦でそのツケを払わされた。
ノックアウトラウンドでは、3試合かけて帳尻を合わせるようなことはできない。当然、失点の重みも増す。軽いプレーは慎んで欲しい。
もうひとつの課題は、相手ががっちり腰を据えて守ると、岩渕抜きの攻撃がほとんど機能しないという点だ。これは、守備を忠実に行う分だけ、攻撃に余力は残らないという面もあるかも知れない。
チリ戦では、日本らしいサッカーが戻ってきたようにも見えるが、これは、自分たちも相手も90分以内の勝負で勝ち点3が必要という、特殊条件下での殴り合いによるもの。ノックアウトラウンドに残った強豪は、守備への集中力が違う。
ベスト8進出国は、全てFIFAランキングで10位以内。単純な日本よりも上(※イギリスはイングランドとしてカウント。イングランド、ウェールズ、スコットランドによる選手数の構成比率で計算すると日本より、やや下)。
女子フル代表の世界大会で決勝を戦ったことがない国は、オーストラリアなど半数以下。「事実上の決勝戦」はともかく「決勝相当」「準決勝相当」の試合ばかり。あとは、各チームが、どれだけベスト8以降の試合に、余力と引き出しを残してきたかが問われる。
林穂之香、木下桃香など、当初の18名枠からこぼれた選手たちも、グループリーグの戦いの中で、輝きを見せている。こうした相手にとって、未知の戦力を福祉士、岩渕以外の攻略ルートを作っていくことが必要だ。(文・西森彰)