高嶋:母は私に、「あなたはかわいそうね。あなたは人前で弾いてちょっとでも間違えると“下手くそ”って言われるけど、私たちは家の中でただただ楽しんで弾けるのよ」って言ってました。

林:それは素晴らしいことだと思う。お母さまはピアノによって豊かな人生を送られたんですね。

高嶋:芸大に行きたかったのに行けなかったという思いがあるわりには、上手に軌道修正したと思います。

林:お母さまはちさ子さんのこういう活動を何とおっしゃったんですか。「もっとクラシックの世界に行ったほうがいい」とは……。

高嶋:上には上がいて、それには力が足りないということが、高校(桐朋女子高)に入ったときからわかっていたので、自分で自分の道を見つけたことに関して「あなたは期待以上だった」と言ってました。

林:それは素晴らしい言葉じゃないですか。

高嶋:ありがたいけど、だからといって私のことをほめるとか、そんなことはぜんぜんないんですよね、うちの家族は。なんか気に入らないみたいです(笑)。

林:そんなことないですよ。口に出して言わないだけで。パパだって自慢の娘だと思うな。

高嶋:(首をかしげて)どうでしょうね。

林:ちさ子さんも、お子さんが二人とも立派になって、旦那さんとも仲良しで、大活躍なさって、もう望むものはないでしょう。だからこんなに生き生きしちゃって。

高嶋:そんなふうに思われることが多くて、同業の人たちにも一人勝ち的なことを言われるし、「高嶋ちさ子が死んじゃえばいいのにと思ってるヴァイオリニストがいっぱいいるよ」って言われたこともあるんですよ。けど、この幸せと今のポジションを維持するのってむちゃくちゃ大変で、そういう大変な部分を人は知らないから。

林:幸せとポジションの両立ってすごく難しいと思う。でも、久しぶりにお会いしたら、すごく健康的で、ほどよく筋肉がついてて、すてきですよ。こんがり日に焼けてますけど、ゴルフでも始めた?

高嶋:はい。子どもが二人ともアメリカに行っちゃったので。

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