林:えっ、5分? 30分ぐらいかかると思ったけど。
高嶋:30分も弾いたら、聴く人の集中力がもたないんです。だから、「本の目次のように5分で演奏いたします」というコンセプトで、凝縮して楽しんでもらおうと思って。
林:私、このあいだ由緒あるオーケストラの定期演奏会を聴きに行ったんですよ。そしたら「何しに来た」という視線を強く感じるんです。ちょっとせきばらいでもしようものならにらみつけられて、「ごめんなさい」って縮み上がって、すごくコワかった。
高嶋:よ~くわかります。そのテーマだったら2時間でも3時間でも話したいことがありますけど、実際、そういう世界が好きな人たちもいます。けれど、日本のトップのオケの人たちも、クラシックが好きなお客さまが減っていることを肌で感じているみたいです。だから、コンサートの前にロビーコンサートをやって、ちょっとトークを入れるとか、みんな工夫をこらすようになってきているので、これからだいぶ変わってくると思います。
林:そうですか。
高嶋:うちの母は慶応のワグネル(学生オーケストラ)出身なので、そのときの友人と一緒にN響(NHK交響楽団)の会員になっていて、私も小さいころによく連れていかれました。ああいうのに行くことが当時はステータスだったんですね。
林:三枝(成彰)さんが、「高嶋ちさ子さんのヴァイオリンの音色はすごくやさしい」ってほめてましたよ。
高嶋:ほんとですか。けっこう内面が出ちゃうんです(笑)。
林:楽器はストラディバリウスでしょう?
高嶋:はい、そうです。
林:私、前にちさ子さんから聞きましたよ。「どういうヴァイオリンを持つかは、歌手の人がどういう声を持つのかと同じだ」って。
高嶋:はい、そうですね。
林:だから皆さん、借金してでも名器を手に入れたいと思うわけですね。貸与される方もいるみたいですけど。
高嶋:財団が持ってることが多いんですけど、財団から借りるなら、世界のトップ層と認められるようにならないといけないんです。