その上で、菊池寛について何を話すべきか。菊池寛記念館の主催だから、毎年多くの人がさまざまな視点から語っているだろうし、違う視点を探すのも骨が折れる。私自身もかつてシンポジウムで語ったこともある。
そこへ文藝春秋社の友人がいいことを教えてくれた。文藝春秋本誌が来年創刊百年を迎えるので社史を編纂するにあたり、八十周年の社史を参照したところ、それが面白かったという話だ。
その時の社史は、半藤一利さんが書いたと聞いて大いに興味をそそられ、その部分のコピーを見せてもらった。
それが実に面白かった。ノンフィクション菊池寛というべきもので、文藝春秋を創刊した逸話や時代背景、芥川龍之介をはじめ多くの文学者との交流が描かれ、戦前・戦後の菊池寛が生き生きとそこにあった。よくある社史の無味乾燥さはまるでなく、あっという間に読んでしまった。
ここからヒントを得て、無事講演をおえることができた。新しく学ぶことの幸せを感じた。
下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。この連載に加筆した『死は最後で最大のときめき』(朝日新書)が発売中
※週刊朝日 2022年12月9日号