東京五輪で新たに採用された日本の伝統競技である「空手」。その見どころや注目の出場選手などを紹介する。AERA 2021年8月2日号から。
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空手は琉球王国時代の護身術、琉球古武道がルーツといわれる。男子形(かた)の喜友名諒(31)は、空手発祥の地・沖縄の誇りを胸に初の五輪に臨む。
「形」は敵を見立てて防御技と攻撃技を組み立てて行われ、技の正確さ、力強さやスピードを競う採点競技だ。
喜友名はコートに立ち、深く一礼すると、まるで目の前に敵がいるかのような鬼気迫る眼光で前をにらむ。空気を切り裂く音が響く突き、ゆったりしているのに一瞬の隙も与えない足の運び、技を放つ際の気迫あふれる声。見る者を圧倒する。
世界選手権は3連覇中、アジア選手権は4連覇中、全日本選手権は9連覇中だ。内容も2位以下に大差をつける圧勝で、2020年1月の国際大会プレミアリーグ・パリ大会では、審判の一人が史上初の満点を出したほど。昨年には国際大会プレミアリーグの優勝回数が19となり、ギネス世界記録にも認定された。これらの実績から、「全競技で金メダルに最も近い」とも言われる。
■本物の空手を示したい
5歳で空手を始めた。中学2年で全国制覇した翌年に劉衛流龍鳳会会長の佐久本嗣男・日本代表男女形監督(73)に弟子入り。技術だけでなく、一つ一つの技の意味も考え、礼節を尊ぶ平和の武としての精神性にも重きを置き、鍛錬してきた。
同じ流派の先輩で、世界選手権女子団体形で2度優勝経験のある清水由佳さんは喜友名の強さをこう説明する。
「きまじめで、決して器用な選手ではない。例えば『わきを締めろ』と言われたら、加減がわからず必要以上に締めてしまうようなところもある。そんな中、努力と空手への思いがあってここまで強くなった。どんなに連覇しようが、金メダルのプレッシャーがあろうが、おごりや焦りもなく、メンタルが常に安定している。どんな状況でも平常心で挑めるのも喜友名の強みだと思います」
空手は24年パリ五輪では採用されなかった。東京五輪は空手の存在感をアピールする舞台となる。
「本物の空手を世界に示したい」