7月29日、福岡県中間市の私立認可保育園「双葉保育園」で倉掛冬生(とうま)ちゃん(5)が送迎バスに閉じ込められて熱中症で死亡するという痛ましい事故が起きた。園の送迎バスの降車時に、運転していた園長が冬生ちゃんを降ろし忘れるという信じられない行為による死亡事故だっただけに、園にも批判が殺到した。なぜこのような悲惨な事故が起きてしまったのか。送迎バスは園児にとって「安全」ではないのか。元保育園の園長が自らの経験を元に、この事故の“不可解さ”を語った。
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「置き去りにされてしまった理由として、園長が話した『泣いている子をなだめるのに気をとられていた』という言い訳はあり得ません。保育士は送迎バスの中では忘れ物ひとつでさえ気を使う。今の時代は本当に親のクレームが怖いですし、バスの中に忘れ物が発覚しただけで、園もスタッフも大騒ぎになるほどです。だからこそ、なぜこんなことが起きてしまったのか、いまだに信じられない思いです」
関東地方で2年前まで保育園の園長をしていた山崎芳江さん(仮名)はこう語る。園長時代には、山崎さんもバスでの送迎に同乗したことがあったという。その経験から、今回の行為がいかにあり得ないことかを話す。
「長靴や水着バッグなど、毎日の持ち物以外の持ち込みがあったときは、登園時に子どものロッカーに『長靴あり』と札を出して、降園準備をするスタッフに申し伝えをします。車内の忘れ物を確認するだけでもそれだけ必死ですし、神経を使っています。ましてや、子どもをバスの中に置き去りにしてしまうことなど、想像もできません。バスに乗り降りする際、目視だけでなく、必ず人数を確認します。そうした基本動作すらできていなかった背景には、園の人手不足もあるような気がします」
今回、バスを運転していたのは40代の女性園長だった。園長自らがバスを運転して死亡事故を引き起こしたことから、「園長なのにとんでもない」というバッシンングも起こった。だが、山崎さんは「園長しか運転手を確保できなかった可能性もある」としてこう話す。