感染不安からは逃れたい。でも「出社」「付き合い」「飲み会」が復活するのは憂鬱。ワクチン接種後の生活をめぐって、さまざまな思いが交錯する。AERA 2021年8月16日-8月23日合併号の記事を紹介する。
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都内に4回目の緊急事態宣言が出る直前。都内で働く会社員の女性は、ワクチン1回目を打ち終わったばかりの男性上司から信じられない言葉を聞いた。
「おっ、久しぶりじゃない。飲みに行こうよ」
「私はワクチンまだなので……」と断ったが、内心は怒り心頭だった。
「まだ抗体もできていないタイミング。もう飲み歩いちゃうんだ、ってびっくりしました。私は打ちたくてもまだ予約すらできていないのに」
とはいえ、たとえワクチンを打ち終わったとしても、飲みに行きたい相手ではない。
「もう少しで断る理由がなくなっちゃうかと思うと複雑です」
■義実家へ帰省の現実味
都内在住で2人の子どもがいる30代女性も、ワクチン接種後の世界に不安を覚える一人だ。というのも、夫の実家への帰省が現実味を帯びてしまうから。
「九州の義実家とはコロナを理由に行き来なしで過ごしてきたので、下の息子は1歳を過ぎましたが義両親は生まれてからまだ一度も会っていません」
まだワクチンを打っていないから、などと理由をつけて遠ざけてきたが、他にも理由がある。
「義理の母は、良く言えばサバサバしているけど、悪く言えば雑。上の息子がまだ離乳食が終わっていない頃に、太巻き寿司を与えようとして。殺す気かと思ってあわてて止めました」
子どもがある程度物事を自分で判断できるようになるまで会わせたくないのが本音だという。
「ワクチンを打ち終わって、さすがに年末年始には会うことになるのかなぁと憂鬱です」
この1年半、「コロナ」は行きたいところに行けない、会いたい人に会えないという状況を作り出してきたが、逆に言えば「行きたくないところに行かなくていい」「会いたくない人に会わなくていい」という免罪符の一面もあった。コロナの収束を願いつつも、強力な免罪符を失うことに、一抹の不安を覚えてしまう人はいるだろう。