エッセイスト 小島慶子
エッセイスト 小島慶子
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8月20日、お台場海浜公園の海上に到着したパラリンピックのシンボルマーク「スリー・アギトス」 (c)朝日新聞社
8月20日、お台場海浜公園の海上に到着したパラリンピックのシンボルマーク「スリー・アギトス」 (c)朝日新聞社

 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

【写真】お台場海浜公園の海上に到着したパラリンピックのシンボルマーク「スリー・アギトス」

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 東京パラリンピックが始まりました。ロンドン大会で大きく注目されて以降、パラリンピックへの関心が高まり、ダイバーシティー・アンド・インクルージョン(多様性と包摂)を促進する世界的な流れの中で、日本でも報道される機会が増えました。

 今月8日の五輪の閉会式で、印象的だったシーンがあります。日本各地の踊りの録画からスタジアムの盆踊りの中継に切り替わった場面で、カメラが車椅子で踊る方を大きく映しました。ダイバーシティーを意識した大会であることを伝える演出だったのでしょう。楽しそうに踊っている方の笑顔がとても素敵でした。

 ただ、車椅子を象徴的にクローズアップする演出は、従来の典型の踏襲という印象も否めません。最近は、ノーマライゼーションという言葉もよく聞きますね。それまで普通とは違うとされてきた人たちが「普通」の存在になるとは、そこにいるのが当たり前になること、誰でも当たり前に暮らせるようになることです。セレモニーを盛り上げるだけではダイバーシティーの実現にはなりません。障害を持つ人や性的少数者、異なる人種的ルーツを持つ人が「時代の象徴」ではなくなるのが、社会に多様性が本当に根付くということではないかと思います。

 オーストラリアのABCには、車椅子の記者や視覚障害のある記者が出演しています。チャリティー特番ではなく、通常の番組です。人々が障害の有無にかかわらず才能を生かして活躍する姿が、日常の光景になること。それが「多様な人がいるのが当たり前の社会」です。もちろん、偏見や差別の実態を伝え、制度の不備を明らかにするのは重要なことです。同時にステレオタイプを排し、画面の中の「普通」が変わることもまた、人々の意識を変え、社会を変えていくことになると期待しています。

小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。『仕事と子育てが大変すぎてリアルに泣いているママたちへ!』(日経BP社)が発売中

AERA 2021年8月30日号