「以前住んでいた区は今も予約できないみたいです。友達と『自治体ガチャ』と話しています」
接種のめどが立たないジレンマの中で、“世代の差”を目の当たりにした若者もいる。会社員の女性(28)はこうこぼす。
「健康であることがマイナスに働くのかって思っちゃいました」
女性は5年前に上京。地元には通いなれた病院があるが、東京で暮らし始めてから歯医者以外の病院には一度も行ったことがない。これまでは、それで不便を感じたこともなかった。
だが、職場でのふとした会話で自分が社会と切り離されていると感じた。女性は言う。
「上司に『かかりつけの病院で予約が取れたから頼んでみたら』と言われました。でも、私にはかかりつけ医がないんです」
日本医師会総合政策研究機構が昨年7月に実施した調査でも、70歳以上の83.4%が「かかりつけ医がいる」と答えたのに対し、30代は34.4%、20代は21.6%と少ない。多くの若者にとって、かかりつけ医は身近ではないのだ。
打ちたくても打てない。そんな若者の声をすくうかのように、東京都は27日から若者を対象にした予約不要のワクチン接種会場を渋谷に立ち上げる。想定する接種人数は1日200人、都内に住む、または通勤・通学する16歳以上39歳以下の人であれば、接種券と身分証だけでワクチンが打てるという。
期待の声が上がる一方で、早くもこんな声も聞こえてきた。「渋谷に行くのすら怖い」「都会ばっかり」「40代はまた切り捨てられるのか」──。命がかかっていると思うからこそ、それぞれの世代が怒りを抱えている。この混乱は8月下旬には収まるのか。
(編集部・福井しほ)
※AERA 2021年8月30日号より抜粋