淡々と話していたリリーさんが、希林さんの話になると、笑顔になった。そうして「分別ついたら億劫になるのは、結婚も映画監督も同じようなもんじゃないかと思うんですよ」と続けた。

「前は監督がしたいと思っていましたけど、その気持ちは薄くなっていっています。自分で脚本めいたものを書いているときも、それを監督することが全てじゃないと思うし、まずいい作品に関わりたい。今の若い監督たちは、世界的に見ても、僕らのジェネレーションにないセンスを持っているし、照明さんもiPadでひとつひとつの照明を調整したりしているんです。若いスタッフが、技術的な進化に対応して、道具をボンボン使いこなしているのを見ると、先輩よりも追いつけないのが後輩なんじゃないのかな、なんて思います」

(菊地陽子 構成/長沢明)

リリー・フランキー/1963年生まれ。福岡県出身。イラストレーターや放送作家、エッセイストなど、さまざまなジャンルで活躍しながら、2005年に発表した初の長編小説『東京タワー~オカンとボクと、時々、オトン~』が06年本屋大賞を受賞。絵本『おでんくん』はアニメ化された。映画の代表作に、「ぐるりのこと。」(08年)、「凶悪」(13年)、「万引き家族」(18年)など。来年公開の日英合作映画「コットンテール」に主演。

週刊朝日  2021年9月3日号より抜粋