「中等症で入院した場合は、1分間1リットル~5リットルの酸素を連続的に流し、最大で10~15リットル使います。缶から出る酸素は、1プッシュで数秒間だけで、1缶約5リットルという酸素量に限りがあります。持続性や量を考えると、効果は極めて限定的です。医療で用いる酸素と同等の治療効果が得られるとは期待しないほうがいいでしょう」
ただ、症状改善を期待するとまではいかなくとも、応急処置としての「酸素缶」の利用についてはどうだろうか。
「トイレに行った後に息が切れた時に使うと、少し呼吸が落ち着くことはあるかもしれません。ただ、効果は短時間で、あまり頼りにはならないと思います」
医学的にみれば、お守り程度に持っておくのがよさそうだ。
というのは、発症後に血中の酸素濃度が低下して酸素投与が必要な状態になった場合、重症化を予防するための薬物治療を速やかに行うことの方が重要だからだ。つまり、ただ酸素を吸っていればよいというわけではないのだ。
寺嶋教授は指摘する。
「現状、中等症2の患者でも血中酸素が不足している容態でないと入院ができない。それほど病床に余裕がありません。しかし、本来ならば、中等症2で血中酸素濃度が93%以下になったら酸素投与が始まります。そして、医師は次の重症を防ぐためにデキサメタゾンやレムデシビルなどの薬物治療を行います。酸素投与が必要な状態になったら入院しなければならないというのは、同時に薬物治療を行うためなのです」
そう考えると血中酸素濃度は重要な指標のようだが、それを患者が「息苦しさ」から判断するのは危険だという。新型コロナの患者には、「ハッピー・ハイポキシア」(幸せな低酸素症)と呼ばれる、酸素が低下しても息苦しいなどの自覚症状を感じにくい人がいるからだ。
やはり、客観的な数値が有用。ならば、指先に挟んで血中酸素飽和度を測定する「パルスオキシメーター」の利用ポイントをあらかじめ知っておきたい。生産が追い付かないという報道もあるが、東京都など、自治体によっては貸し出しているところがある。