●2000年12月10日:新日本/佐々木健介vs小原道由(愛知県体育館)

「健介対小原の6秒」として知られる秒殺試合はIWGP争奪トーナメント挑戦者決定戦でのこと。佐々木はゴングが鳴ると猛烈なダッシュでラリアットを見舞って3カウントのフォール勝ちを収めた。

「当時、失神しちゃって記憶はほとんどないんですけど、たしか担架で運ばれたんすよね。終わった後に。なんかみんな死んだと思ったみたいで」(小原/2014年12月3日TBS系「水曜日のダウンタウン」)

 後年、新日本を放映するテレビ朝日以外の他局番組でも話題に上がるほど衝撃度の高い決着だった。

 同会場では同年3月の全日本・大森vs秋山戦で7秒決着があったばかり。新日本が意識したのか、それとも偶然の決着だったのか。愛知での秒殺決着は、記録と記憶に刻まれる伝説の試合になった。

「6秒の秒殺でありました」(辻よしなりアナウンサー・当時テレビ朝日)

 パンクラス以降のプロレス界、秒殺というワードが当たり前のように使用されていたのがわかる。

 上記以外にも2004年8月17日、新日本・後楽園での鈴木みのるvsえべっさん戦が印象に残る。鈴木のスリーパーホールドで1秒決着というギネス級決着だった。「新幹線に乗ってわざわざ来たんやから」(えべっさん)と再戦要求で組まれた2試合目も腕ひしぎ逆十字を決めで22秒の決着。「もう1回」(えべっさん)の3試合目も逆落としで1分26秒(86秒)でえべっさんが失神TKO負け。3試合合計でも109秒というコントのような試合だった。

 またプロレスリング・ノアの井上雅央が新春大会で秒殺されるのも恒例となった。今年も1月4日の後楽園で藤田和之にスタンド式のフロントネックロックでタップアウト負けを喫した。試合時間は6秒で2020年マイケル・エルガンに喫した8秒の記録を更新してしまった。

 鈴木vsえべっさん、井上の負けなどは花試合の色合いも強い。しかし従来からの先入観や予定調和をぶち壊すような秒殺が思わぬタイミングで行われることもある。この時に感じる意外性や高揚感はプロレスの大きな魅力だ。かつてはボボ・ブラジルや力道山も秒殺試合を数多く行ったというからプロレスの伝統とも言えるだろう。

 レスラー同士が技を掛け合い、受け切ることでプロレスは成り立つ。そのためには鍛え上げられ常人離れした肉体が必要だ。プロレス技を素人が受けたら即失神、大怪我の秒殺になる。秒殺試合を見るたびに受けの美学、そしてプロレスラーの凄さをも感じてしまう。(文・山岡則夫)

●プロフィール
山岡則夫/1972年島根県出身。千葉大学卒業後、アパレル会社勤務などを経て01年にInnings,Co.を設立、雑誌『Ballpark Time!』を発刊。現在はBallparkレーベルとして様々な書籍、雑誌を企画、編集・製作するほか、多くの雑誌、書籍、ホームページ等に寄稿している。Ballpark Time!公式ページ、facebook(Ballpark Time)に取材日記を不定期更新中。現在の肩書きはスポーツスペクテイター。

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