ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は、カイリー・ミノーグさんについて。
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祭りのあとの余熱や残り香が漂うこともなく、オリンピックが閉幕した次の日から、ただの緊急事態宣言下に戻った東京の街。これが「無観客」の威力なのか。まるで何も起こっていなかったかのような静けさです。
何かと賛否両論が沸き起こった開会式と閉会式ですが、どちらも親の仇のように「多様性」を押し出した結果、収拾がつかなくなってしまった演出も幾つか散見されました。オリンピックというこの世でいちばん健全とされる場所で、あらゆる「多様性」を同じ鍋釜に入れても、結局は「下手くそな料理」にしかならないことなど、過去の大会を見れば理解(わか)ったはずなのに。
ただ、私には忘れられない五輪閉会式があります。2000年のシドニー大会。マラソンの高橋尚子さんや柔道の井上康生さん、さらにはYAWARAちゃんこと田村亮子さんが初の金メダルを獲った大会です。男子競泳では金三つ銀二つを獲得した地元17歳のイアン・ソープ君がニュースターになりました。彼は後にゲイをカムアウトしたことでも有名です。
そんなシドニー大会の閉会式。戦いを終えた各国の選手たち以外に、地元の鼓笛隊や自国の人気歌手らが次々と出てきて歌ったり踊ったりというのは、此度の東京大会のそれとさほど変わりはなく。オリンピック旗の降納も済み、いよいよ宴も後半に突入すると、あとは延々とパレードの山車と歌謡ショーが続くだけ。ザッツ・後夜祭の様相です。開始から2時間が過ぎた頃には、先住民の歌手とダンサーたちによるパフォーマンスもあり、会場の熱気はさらに上がります。