役作りは、いつも撮影現場や稽古場に入る前に、たくさん考えて準備するんですけど、一方で柔軟でもいなきゃいけなくて。だから、普段から自分だけで考えすぎないように、周りの人と作りあげていくことを大切にしなきゃという思いでいます。
ただ、あの作品に関しては、全部自分1人で役を構築していかなければならなかった。それをやりつつ、そう見えないように、とは意識していました。
どういう思いでいたかというと、ただただ気持ちを込めるというだけなんですけど(笑)。自分にも兄という存在がいるので、そこに対する感情はしっかり持ってやりました。
――同作では、少し神経質な兄、お調子者の次男、愛されキャラの末っ子の三つ子を1人で演じきった。どこにでもいそうな3人なのに、それぞれが別の人間として画面の中で生きていた。単発ドラマにもかかわらず反響を呼び、昨年度のギャラクシー賞テレビ部門大賞を受賞した。
反響をたくさんいただいたんですが、正直僕は自信はなかったんです。最後まで悩みながら、「もっとああしておけばよかった」ってことだらけでした。
でも、撮影後、改めて作品を見た時に、メイクさん、衣装さん、照明さんが、表情や肌の質感とか、役ごとに見え方を変えてくれていることに気づいて。僕の役作りなんてちっぽけなもので、そういう力が集結して、一つ一つの役が生まれるんだと感じることができたんです。
だから、コロナ禍では、コミュニケーションは意識的に増やすようになりました。いろいろな部署のスタッフさんのこだわりを聞いたりしますし、自分にとっては得るものしかないです。見失いがちなことなのですごく良い経験でした。僕と一緒に仕事をして、楽しいと思ってもらいたいですよね。自分もたくさんそう思わせてもらったので。
■しんどいことが多い
――言葉の端々から、スタッフやファンへの感謝を感じる。俳優として、人として、さらに厚みを増したように見えた。本人に伝えると、少しはにかんだ。
めちゃくちゃうれしいです。ありがとうございます。でも、本当にすぐ悩みますし、自信のない人間だと自分では思うんです。不安になることも多いですし、ちょっとしたことを気にしすぎちゃうタイプです。だから、きっと今を生きる人と同じように、しんどいことの方が多くて。でも、この仕事で救われていると思います。一人でいると、だめになっちゃいますよね。