■尖閣を取りにくる恐れ

 米国は対中包囲網として、九州南端から台湾の東沖を通り、南シナ海を囲む第1列島線上に無人攻撃機や中距離ミサイルを配備したい。ただ、菅政権に政治リソースを使ってまで、こうした問題に取り組む決意が見えないことに、米側はいら立っていた。今年後半の2プラス2で、ミサイルや無人機の配備について文書で触れられる可能性はほとんどないという。

 では、菅政権が対中国外交に力を入れたかと言えば、そうではない。来年は日中国交正常化50周年にあたる。外務省関係者は「官邸からは、節目の年に何をするのか、という指示が聞こえてこない」と語る。日韓関係に至っては、菅首相は就任早々、「韓国との関係は動かすな」と指示したきり、ほとんど報告を聞くのも嫌がるほどだったという。

 現時点でポスト菅政権が外交と安全保障の安定を生み出すかどうかはわからない。

 自民党関係者によれば、菅政権で総選挙を戦う場合、現有276議席から40~70減という調査結果もあったという。後継首相が誰になったとしても、コロナ対策や五輪強行などを巡る反発から、自民党優勢の風が吹くかどうかは見通せない。単独過半数(233議席)を割り込めば、それこそ、「1年ごとに首相が代わる」と言われた時代に逆戻りするかもしれない。

 米国や日本の関係者が今、懸念しているのは、こうした日本の政治的混乱に、中国やロシアがつけ込むことだ。関係者の一人は「共産主義国家は常に相手の隙を狙っている。日本の意思決定システムが麻痺していると確信すれば、尖閣諸島を取りにくることだってある」と語った。(朝日新聞記者・牧野愛博)

AERA 2021年9月13日号