圧倒的な存在感で、個性派俳優として活躍するムロツヨシさんがAERAに登場。デビューから25年を迎え、役者人生を語った。AERA 2021年9月13日号に掲載された記事から。
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ずっと、“代わりのいない人間”になりたかった。小劇団の舞台に立ち、コンサート会場で設営のアルバイトをしていた20代、仕事を始めて3年後には、30人ほどのスタッフを束ねる立場になった。
「代わりのいる人間になりたくないと思って動いているから、どんどん地位が上がっていって。この経験から、自分の個性のようなものを自覚し、自己分析できるようになった気がします」
役者としても、“代わりがいない”ことにこだわり続けた。
「作品の枠を超えてまで、『僕を知ってください』というやり方はタブーだと思っていました。でも、作品の意味やキャラクターを通して、変化球を投げたり、みんなが使わないスパイスを使ったりしながら、ムロツヨシを知っていただきたい。そんな気持ちがあったんです」
だが、役者人生25年を迎えたこの一年、心境に変化があった。10年連続で連続ドラマにレギュラー出演し、初主演映画「マイ・ダディ」も公開される。ムロツヨシの名は広く知られるようになった。
だからこそ、今後は、演じ手としての自分をもっと深く掘り下げていかなければ、逆に代わりがいくらでもいるような役者になってしまうのではと考えた。
「見ても見なくても無関心になられるのが怖い」。好きでも嫌いでも、感情が動いてくれればいい。でも、居て当たり前の存在にはなりたくない。
そろそろ"代わりのきかない個性"を封印し、新たなムロツヨシを探っていきたいという。
「まだ皆さんにお見せしていない、自分の中の蓋を開ける時なのかな。自分の中に新たな蓋があるのか?と聞かれたら僕にもわかりませんけれど(笑)」
どんなことにも真摯に向き合う一方で、「楽しくあること」も忘れない。楽しい現場がよい作品をつくると信じているからだ。撮影ではフォトグラファーの蜷川実花に開口一番、「手を抜いていいですよー、ムロですから」と言って和ませたかと思えば、取材前後には「取り上げてくださり、ありがとうございます」と頭を下げた。信頼され、愛される理由だ。
(ライター・古谷ゆう子)
※AERA 2021年9月13日号