東京湾岸沿いの倉庫には、サブスクリプションで貸し出す家具や家電が所狭しと収められている。真夏は朝から30度を超し、扇風機が欠かせない(撮影/写真部・東川哲也)
東京湾岸沿いの倉庫には、サブスクリプションで貸し出す家具や家電が所狭しと収められている。真夏は朝から30度を超し、扇風機が欠かせない(撮影/写真部・東川哲也)
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久保裕丈(くぼ・ひろたけ)/1981年生まれ、東京都八王子市出身。40歳(撮影/写真部・東川哲也)
久保裕丈(くぼ・ひろたけ)/1981年生まれ、東京都八王子市出身。40歳(撮影/写真部・東川哲也)

 かつての起業家が「意思ある投資家」として、次世代の起業家を育てる。そんな循環の中心にいる人々に迫る短期集中連載。第1シリーズの第4回は、家具や家電を定額で貸し出す「CLAS(クラス)」代表取締役で、「初代バチェラー」でもある久保裕丈(40)だ。AERA 2021年9月13日号の記事の2回目。

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 久保は1981年8月、東京都八王子市で生まれた。両親はともに市役所で働く公務員で、祖母は学校の先生。「あんたもしっかり勉強して公務員になりなさい」と言われて育った。

 中学受験では第3志望の海城中学・高校に進んだ。数学の教員免許を持つ父親に勉強を見てもらったこともあり、高校3年からスパートをかけただけで東大理科一類にストレートで合格。そのまま大学院に進み、プラズマ材料の研究に没頭した。地下の研究室にこもって夜中まで実験を続ける生活が「性分に合っていた」と振り返る。

 米国とスイスに短期留学した時、多くの研究者がMBA(経営学修士)を取得していると知った。先端技術を使ってビジネスを立ち上げるためだ。「研究の成果を社会に還元するには経営が必要なのか」と悟った。

 経営に惹(ひ)かれた久保は院生1年目の冬にA.T.カーニーの内定を得る。そこには後に同社日本代表になる梅澤高明がいた。

 梅澤は東大の先輩で、日産自動車からマサチューセッツ工科大学の経営大学院を経てA.T.カーニーのニューヨークオフィスに入った。東大在学中にゴシック・ロックバンドのベーシスト兼作曲家として鳴らし、入社後も激務の合間にクラブでDJをこなす。クールジャパン機構の社外取締役など政府系の仕事も受け、テレビ出演も多い。

 だが華やかな活躍ぶりとは裏腹に、仕事ぶりは「異常なほどにストイック」だった。ほとんど睡眠をとらず、短時間の瞑想だけで何日もぶっ通しで働き続ける。そんな梅澤の下で、久保はハイテク企業から流通まで様々な会社の組織戦略の立案や新規事業の立ち上げを任された。

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