林:誘導してくれるって、どんなふうに?
美波 目線で合図をくれるんです。自分が映らないカットでも、彼がちょっとずつ目線を動かしていってくれて、私がその目線に従ってついていくと、光がいちばんいいスポットに私が入っているんです。スーパースターなのに、ほんとに気配りが素晴らしくて、すてきな方でした。
林:アイリーンは最初、ミステリアスな女性として彼のアパートにあらわれますよね。いつも暗闇の中から出てくるんだけど、私、原節子さんに似ているなと思って見てました、雰囲気が。
美波:あら! 光栄です。
林:この映画のハイライトは、世界中に衝撃と感動を与えたお風呂の写真(「入浴する智子と母」)の撮影シーンですけど、ユージンがひざまずかんばかりにしてシャッターを切るじゃないですか。素晴らしいシーンでした。
美波:はい、あのシーンは、物音ひとつしない、シーンとした中で「カシャ」というシャッター音だけが響いていて。うまく言えないんですけど、ユージンは影をずっと撮っていて、“動”じゃなくて“静”を撮っている人なんだなと、あのシーンで思いました。
林:彼の人間性が出ていましたよね。いきなり訪ねて「撮らせてほしい」と言わず、ずっと待って、待って、信頼を得てから、最後に撮るんですね。だから、あの写真が世界中の人々の心を打つわけで、あの写真を撮るまでに、アイリーンさんが大きな力を果たしていたんですよね。
美波:そうですね。ユージンは水俣に数年滞在していたんですけど、水俣を最後に写真を撮ることが難しくなってしまったんです。取材の途中、暴行事件にあって、脊髄損傷と片目失明という重傷を負ってしまって。
林:カメラマンの命である目を、暴行事件で奪われてしまったんですね。
美波 はい。この作品では、アンドリューやジョニーがプロデュースして、光も闇も、丁寧に映し出してくれているのは、すごくありがたいなと思っています。
林:昨今は、SDGs(持続可能な開発目標)が盛んに叫ばれています。公害とか環境問題は、そのはしりだったわけですからね。