“PINK FLOYD LONDON”とペインティングされた多くの楽器群が機材車に運ばれる。Blu-rayには羽田に降り立ったばかりのメンバーの姿も。長髪に長身の彼らは厳格な生活を好む修道士に見えた。その哲学的な佇まいの彼らが自身の楽曲「吹けよ風、呼べよ嵐」のごとく、延べ4万人に、底知れぬプログレの詩情を披露した。

 コンピュータの緻密な制御で非日常空間が再現される現代に比べ、「アフロ・ディーテ」と片仮名の看板が掲げられた木造ステージは石器時代のようとも。だがよく見れば、舞台は綿密に計算され、作り込まれた美しい数寄屋造りにも思え、学生時代に建築を学んだメンバーたちが伝統様式のステージ上でプログレッシブロックを演奏した奇縁を感じざるを得ない。

 今回の立役者、ソニーミュージックの白木は伊豆大島の出身。「洋楽なんて興味ない野球少年だったんです。美術の先生が僕ら生徒にピンク・フロイドのレコードを聴かせ、このイマジネーションを絵に描きなさいって。僕の音楽人生の原点です」

 のどかな島の美術教師もピンク・フロイドのファンだったのだろう。優れた音楽はこうして聴き継がれ、語り継がれる。

延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー。国文学研究資料館・文化庁共催「ないじぇる芸術共創ラボ」委員。小説現代新人賞、ABU(アジア太平洋放送連合)賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞など受賞

週刊朝日  2021年9月24日号

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延江浩

延江浩

延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー、作家。小説現代新人賞、アジア太平洋放送連合賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞、放送文化基金最優秀賞、毎日芸術賞など受賞。新刊「J」(幻冬舎)が好評発売中

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