ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は、「縦社会思考」について。
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人間関係には主に「縦」と「横」の2種類あると言われ、特に日本の男社会は、年齢や年次で上下を定める「縦の繋がり」を重視する傾向にあります。かく言う私も、こう見えて意外なほどに歳や学年やキャリアを気にする至極男性的なオカマです。
しかし、こうした「誰が先輩で誰が後輩」といった関係性は、第三者の視点からすれば、実にどうでもいいことだったりもします。EXILE TRIBEや、古くはおニャン子クラブの会員番号制度など「縦の繋がり」による序列をキャッチーに見せることは、物事の値打ちを見出す感性に乏しい男性たちにとって、唯一とも言える「手がかり」になっているのかもしれません。任侠モノも、大河ドラマも、野球も、歌舞伎も、石原軍団も。死ぬまで「縦」に縛られながら、いかに腕力と政治力で下克上を果たして行けるか。それが日本の男社会のすべてと言えるでしょう。女社会でも、この縦構図が有効な世界は若干ながら存在します。花柳界、ホステス業界、自衛隊、そして宝塚です。
前述通り「縦の繋がり」というのは、基本的に本人たちの間でしか成立していない限定された認識に過ぎず、その認識度合いを過信すると、途端に滑稽に映る危険性があります。人間、共通認識・共通言語に溺れたらおしまいです。演歌歌手の人たちが北島三郎さんを「北島の御大」とか「おやじ」と言って崇めたり。後輩ジャニーズが先輩のことを「KinKi Kidsさん」「少年隊さん」などと、おかしな日本語で呼んでいたり。彼らの関係性を理解できてはいても、思わず「知ったこっちゃねーよ!」と叫びたくなる時があります。AKBのメンバーが、「秋元先生」呼びするのも究極の内輪ネタです。
かと言って、欧米人のように誰それ構わず下の名前で呼び捨てするのは抵抗があります。アリアナ・グランデがマライア・キャリーに向かって「ヘーイ! マライアー!」などと言おうものなら、私は迷わずアリアナを窘めるでしょう。「おめー、誰に向かってタメ口叩いてんだよ?」と。どちらとも無関係ですが。