成田空港のA滑走路で捕獲されたアカミミガメ。全長約30センチ、重さ約2キロと、かなり大きい (c)朝日新聞社
成田空港のA滑走路で捕獲されたアカミミガメ。全長約30センチ、重さ約2キロと、かなり大きい (c)朝日新聞社

■カルガモのひなも襲う

 都市部の汚れた川や沼の水をものともせず、繁殖力が強いアカミミガメは現在、全都道府県の野外で確認され、約800万匹が生息していると推定される。

 日本には在来の亀として、ニホンイシガメ、ニホンスッポンなどが生息しているが、2013年の調査では、アカミミガメの割合は64%に達し、ニホンイシガメは9%、ニホンスッポンは3%だった。

「アカミミガメが増えることで特にニホンイシガメが減少しています。エサを奪われ、陸地に上がって日光浴をする場所も奪われている」(前田さん)

 成体のアカミミガメはニホンイシガメよりも圧倒的に大きいので、追いやられる一方だろう。もうひとつ、深刻なのはアカミミガメによる食害だ。雑食性で、驚くことに、カルガモのひなまでも襲って食べてしまう。口に入るものであれば、なんでも胃袋に入れてしまう食べっぷりだ。

「貴重な生態系を構成する在来の生きものを食べてしまう。生態系のバランスが崩れて、景色が変わってしまう」(前田さん)

 アカミミガメが繁殖した水路を写した写真を見ると、水草が消えてしまっている。

■成田空港の亀が放たれた理由

 生態系への被害はいつごろから目立つようになったのか?「悪影響はかなり以前からあったと思いますが、問題意識が持たれるようになってきたのは、比較的最近のことです」と、前田さんは説明する。

 2004年に外来生物法(正式名称は「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」)ができるまでは「外来生物」という言葉もあまり知られていなかったという。近年、さまざまな外来生物が「特定外来生物」に指定され、飼育、運搬、販売、譲渡、野外に放つことなどが規制されている。ところが、「アカミミガメについては、アメリカザリガニと同じ状況で、現状では法的な規制はかかっていません」と前田さんは話す。今回、成田空港で捕獲されたアカミミガメも特定外来生物ではないことが確認されたことから池に放たれた。

 環境省は平成27(2015)年に「アカミミガメ対策推進プロジェクト」を立ち上げている。

「その成果もあって、アカミミガメの輸入量は大きく減少しています。ただ、法的な規制の検討も行ったんですが、『なかなか難しい』という結論になりました。(現行の外来生物法を適用すると)多くのご家庭で飼われている『ミドリガメ』に規制がかかってしまう。それで、これらの亀が野外に放されてしまうことが懸念されたんです」(前田さん)

 アカミミガメの飼育数は約110万世帯、約180万個体と推定され、飼育世帯数はアメリカザリガニ(約65万世帯、約540万個体)を上回る。

■いまとは別な枠組みで法規制を

 では今後、法規制は進むのだろうか?「外来生物法はさまざまな規制がワンセットになっているので、例えば、輸入だけを禁止することはできない。飼うことも運ぶことも規制される、という仕組みです。ですから、アカミミガメをいまの外来生物法の枠組みで特定外来生物に指定するのは難しい」としたうえで、前田さんはこう続けた。「今年8月の専門家会議で『そうではないやり方を検討してほしい』と、提言いただきました。それを踏まえたうえで環境省中央環境審議会で引き続き検討、議論していきます。ただ、具体的にどうなるかは未定です」。

(AERA dot.編集部・米倉昭仁)