江戸時代以前に造られた天守閣が現存する城は、全国でわずかに12しかない。いずれも歴史的価値だけでなく、壮麗さにおいても、人々を魅了し続けている。
城は四季折々に異なった表情を見せてくれ、秋にこそ美しさを増す天守閣もある。たとえば標高430mの山にそびえる備中松山城。日本一高い場所に残る天守閣は、これからの季節は雲海に浮かんで見えるのだ。
「このあたりは狭い盆地で、秋から冬にかけて、早朝に深い霧が発生します。そういう日は、盆地の北側の山頂に建つ城が、霧の上に見えるのです。朝日が差し込む中、きれいに紅葉した木に囲まれた天守閣が浮かぶ光景は幻想的。天空の山城とも称されます」(岡山県高梁市観光課)
他にも桜の名所・弘前城は、秋には松と楓(かえで)のコントラストが鮮やか。丸亀城なら、自慢の石垣を背景に紅葉が映える。
現存12天守の秋の魅力については、発売中の「歴史道」(週刊朝日ムック)に詳しい。秋の行楽シーズンに、コロナ禍がおさまっていることを祈りたい。
■備中松山城(岡山県高梁市)
天空の城といえば竹田城が「日本のマチュピチュ」と呼ばれ有名になったが、あちらは城址。一方、備中松山城は天和3(1683)年に建てられた2層2階の天守閣が、雲の間から顔を見せる。「前日と次の日の朝の気温の差が大きいほど、雲海が出やすいです。天空に浮かぶ様子がよく見える雲海展望台もあります」(高梁市観光課)
■弘前城(青森県弘前市)
2600本もの桜が咲き誇り、春の景勝地としてあまりにも有名な弘前城。だが秋にも魅力的な顔を見せる。「弘前公園には約2000本の松と約1100本の楓の木がありまして、例年、11月上旬には緑と赤で鮮やかに彩られます」(弘前市公園緑地課)。昨年は中止となったが、今年は11月1日から7日まで恒例の「弘前城菊と紅葉まつり」開催予定
■丸亀城(香川県丸亀市)
石積みの技術が最高水準に達した江戸時代初期に建てられた。日本一の総高60mの石垣は壮観で「石の城」と形容される。「天守閣に行くには、10分ほど急坂を登ります。見返り坂を登ったところに、上に行くほど石垣の角度が急になる扇の勾配があります。その辺りは木も多く、石垣と天守閣を背景にした紅葉がきれいです」(丸亀市産業観光課)
(取材・文/本誌・菊地武顕)
※週刊朝日 2021年10月8日号