■これがヒップホップ
アルバムのラストを飾る「土産話」では、Creepy Nutsの道程が綴られている。
R-指定:この曲は特に今書いとかなきゃと思った曲です。過去を歌詞にするだけで成立する、波瀾万丈の人生を送っているラッパーはたくさんいて、でも俺はそうではないというのがコンプレックスでもあったんです。だから、手を替え品を替え、その時々の自分をラップに落とし込んできた。だけど、今回Creepy Nutsを始めてからを振り返ってみたら、なかなかドラマチックに歩いてきているな、と。書くだけで1曲の歌詞になるぐらいの階段をのぼってきたんやなと思いました。
松永:こういう曲が作れたのは感慨深いです。「土産話」は俺らにとって一個の到達点という感じがしています。
過去を振り返って、お互いをたたえ合うようなことはあまりしてこなかったんです。でも、このタイミングで一回立ち止まって後ろを向いて、「俺ら頑張ったくさくない?」「ちょっと一杯」みたいな打ち上げ的な曲ができた(笑)。この先くじけることもあると思いますが、その時のためのお守りというか、この曲を聴いたら自信が取り戻せるんじゃないかなと思うんですよね。
——節目となるアルバムができ、音楽活動へのモチベーションはさらに上がっているという。
松永:今は曲を作るのが楽しくて、作りたい曲がたくさんあります。音楽環境を整えることにもハマっています。昔は「環境整えなくても良い音楽は作れる」と思ってたんですけど、稼げるようになって環境に投資するのは健康なことだと思うし。投資してみたら、見える景色がマジで変わりました。良い音で聴かないとわからないこともあるんですよね。音が悪いと粗も隠れてしまうので。
R-指定:俺はやっぱり、全部の行動基準がラップなんです。松永さんがさっき「音楽以外の仕事も結局、音楽に返ってくる」と言いましたけど、俺も他の仕事をすることによって、書くラップが広がった。自分の体験が自分の中から言葉を出してくれるので、たくさん遊んで、いろいろなことを体験したい。
これまでの俺の作詞は、自分のセラピーでも自己啓発でもあるんですけど、自傷行為でもあった。でも、「土産話」で自分が歩んできた道をラップにして、「これがヒップホップや」という表現をできたのも大きくて。今度は自分のことではないことをストーリーテリングして表現するとか、違うラップの作り方を研究してみてもいいかなと思っています。ラップの書き方も山ほどあるので、いろいろ挑戦してみたいですね。
松永:作詞に限らず、クリエイティブの源が後ろ向きな気持ちだと、長いスパンで見て幸せになれないんじゃないかと思うんですよね。
R-指定:楽しいのはいいよな。俺も30歳になったらもっと絶望するのかな、と思ってたけど、割とワクワクしてる。
(ライター・小松香里)
※AERA 2021年10月4日号