飯田哲也・環境エネルギー政策研究所長は、今回の成果について厳しい目を向けている。レーザー光線を生じさせるためのエネルギーや燃料製造のエネルギーを含めて考えると、投入エネルギーの1%以下しか核融合で生み出されていないからだ。
核融合炉も、生じたエネルギーを熱として回収し、それでタービンを回して発電することが考えられている。そこは原子力発電所や火力発電所と同じ仕組みだ。「その部分のコスト低下はありえない。核融合エネルギー(太陽のエネルギー)を使うなら、太陽光発電と風力発電ということで、すでに科学技術史的には決着済みだ」と飯田さんは言う。
核融合発電の発電コストは現在の原発と同等になるとされている。しかし太陽光発電や風力発電は近年急激に発電コストが下がってきており、すでに原発より安いという報告もある。
■前のめりの政権
岸田政権は、昨年、原発政策を大きく変える方針を打ち出した。原発の運転延長、古い原発の建て替え、新型原発の開発を進めるとしている。核融合についても前のめりだ。
政府が昨年9月に立ち上げた核融合戦略有識者会議では、核融合の実用化を早めようとしている。第1回会議の冒頭で、高市早苗・科学技術政策担当大臣は「できましたらこの核融合技術の商業化に向けた取り組みを加速していきたいという強い思いを持っている」と挨拶した。
これまでは、35年に運転を始めるITERの結果を踏まえた上で、発電できる原型炉を建設し、今世紀中葉で実証を目指すとしていた。それをもっと早めて、世界初の核融合発電を日本で始めようというのだ。
会議は非公開だが、議事要旨を読むと前倒しを進めようとする流れが固まりつつあるように見える。
ただし、こんな意見もあったようだ。有識者委員の吉田善章・核融合科学研究所所長は、高速増殖炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)が小さな計測器の事故から廃炉になったことを例に、こう述べている。