オイルショックに見舞われた1970年代、研究者たちは、「あと30年で核融合発電が実現できる」と楽観的に語っていた。今回の発表は、遅れること10年余りで、ようやく科学的には一里塚を越えたが、商用発電までの道のりはまだ遠い。
日本政府は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするカーボンニュートラルを目指すと宣言しているが、時間的に、これには役立ちそうにない。
■商用発電に壁
ローレンス・リバモア国立研究所(LLNL)のキム・ブディル所長は、記者会見で商用発電への見通しについて問われ、「科学だけでなく、技術的にも非常に大きなハードルがある」「50年、60年かかるとは思わないが、おそらく数十年はかかるだろう」と話した。
LLNLは、もともと核兵器開発のために設けられた研究所だ。レーザー核融合の装置はその目的と強く結びついており、莫大な研究費が投入されてきた。核融合の状態を作り出してその性質を調べることで、核兵器の性能向上や維持に役立つからだ。商用の発電施設として24時間365日何十年間も運転するには、耐久性、経済性の確保に大きな壁がある。
日本は、LLNLとは別の形式の核融合炉である国際熱核融合実験炉(ITER)の計画に参加している。
ITERは、日本、欧州、米国、ロシア、中国、韓国、インドが参加して、フランス南部で07年から建設が始まった。25年の運転開始、35年の核融合運転を計画している。今回の発表よりさらに大きな、反応を開始するのに必要なエネルギーの10倍以上を生み出すことを目指している。ただしITERも核融合は起こすものの、発電設備は無い。
■山積する課題
日本政府の現在の計画では、ITERの実績を見て科学的・技術的に実現可能か確認してから、発電できる原型炉を作って経済性などを確かめ、21世紀中葉までに実用化の目処を立てようとしている。
プラズマ・核融合学会の竹入康彦会長(核融合科学研究所前所長)は「21世紀中葉といっても、2050年の実用化は厳しく、60年、70年ごろまでかかるかもしれない」と言う。核融合エネルギーを電気に変えるために、発電の技術、材料、経済効率などでまだ解決しなければならない問題は多いというのだ。