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 作家・編集者の佐山一郎さんが選んだ「今週の一冊」。今回は『ディエゴを探して』(藤坂ガルシア千鶴著、イースト・プレス 1870円・税込み)を取り上げる。

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 誘惑者ディエゴ・マラドーナに特別な親近感を持つ人がいる。その一方で、存在自体を嫌う人もいる。うさん臭い「神の手ゴール」を1986年メキシコ・ワールドカップで決められてしまった元イングランド代表ゴールキーパーのピーター・シルトンは今でも不満に思っていると伝え聞く。

 天才の二面性という抜き差しならぬ問題の核心はその4分後、55分の伝説の5人抜きにあった。“世紀のゴール”に関しては、被害に遭ったイングランド側も賛嘆の声を上げそうになるほどだった。82年のフォークランド紛争もアルゼンチン側からすればマルビナス紛争での屈辱的敗戦。アルゼンチンはサッカーで復讐を果たした。

 この「悪魔」(マラドーナ)と「神」(ディエゴ)との二つの顔を持つ史上最高のサッカー選手が命の花を散らしたのは昨年11月25日。急性心不全による60歳の死だった。アルゼンチン政府は3日間の服喪を宣言している。

 本書が異彩を放つのは、天才児時代のディエゴに光を当てた点にある。著者は立ち位置からしてユニークで、初心としてあったのが「マラドーナを探して」のアルゼンチン暮らし。大学卒業と同時に首都・ブエノスアイレスに向かい32年の時が流れながらも、初志貫徹のつもりで本書を書き上げた。専門誌への寄稿、翻訳などで彼女の南米サッカー情報に触れてきた人も多い。めざめが78年アルゼンチン・ワールドカップとあるから早熟な少女だったのだろう。

 日本で開催された翌79年のワールドユース優勝以来、人気はうなぎ登り。凋落の決定打となったのは、4度目の出場となる94年アメリカ・ワールドカップでのドーピング陽性反応だった。最初のギリシャ戦でのゴール・パフォーマンスが伏線となった。TVカメラに噛みつくようにして何かを叫び、各国実況陣と国際サッカー連盟(FIFA)上層部を大いに困惑させた。

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