93年11月、衆院の特別委員会。参考人として出席した猪口邦子・上智大教授(当時、現・自民参院議員)は「女性の政治代表は、他の先進民主主義国の水準を著しく逸脱するほど不公平な水準にある」と指摘し、比例名簿で男女を1人おきにいれるような工夫をするべきだと提案していた。
しかし、こうした提案は男性中心の国会では、かえりみられることがなかった。
自民党は05年、郵政民営化の賛成・反対で分裂した「郵政選挙」で、女性候補を比例名簿の上位に載せて当選させた。比例東京ブロック1位になった猪口氏もその一人となり、当選1回で少子化・男女共同参画担当相に起用された。
■カネがかかる弊害には効果 選択は狭まり国政に閉塞感
しかし、自民党に逆風が吹いた09年の衆院選ではそうした措置は消えた。猪口氏は1期で不出馬に追い込まれたのだった。
09年衆院選では、46人の女性を擁立した民主党が40人を当選させるなど、54人の女性議員が当選。衆院議員の女性比率が1割を超えたが、その後、民主党は分裂。小選挙区導入から25年間で、志のある女性が世襲でなくても当選を重ねられる環境を作ることができず、日本のジェンダーギャップ指数低迷の大きな要因になっている。昨年9月の日本政治学会でも議論になったが、小選挙区制の導入論議で欠けていたのは「多様性」だ。
最初の小選挙区選挙の後、細川、村山内閣でそれぞれ首相補佐官を務めた田中秀征氏と錦織淳氏が対談本『この日本はどうなる』(近代文芸社、97年刊)で次のように語っていた。
錦織氏「中選挙区と比べた場合、1対1の対決になり、有権者が非常に肩身の狭い思いをする。どっちを選ぶのかというプレッシャーをかけられ、非常に嫌な思いをする」
田中氏「重苦しくなる」
錦織氏「中選挙区だと5人、10人とたくさん出ますでしょう」
田中氏「お祭り騒ぎのような明るさもあったね」
小選挙区制の導入は、同じ政党の候補者同士がサービス合戦となってカネがかかる中選挙区制の弊害を改める効果はあった。しかし、政権を競い合う政治の中身が定まらないままに「政権交代可能な選挙制度」へと突き進んだ政治改革は、党執行部の権限を強めるばかりで、有権者の選択は狭まり、国政の閉塞感を強めている。
今回の衆院選は「自公」と「野党共闘」の2大ブロックを中心とした選択となるが、有権者が時宜にかなった「人を選べる」仕組みを取り戻すことが必要だ。まずは公認候補を決める候補者の予備選を導入するなどの工夫をし、将来的には選挙制度自体の見直しをするべきだ。(朝日新聞政治部・南彰)
※AERA 2021年10月18日号より抜粋