TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽とともに社会を語る、本誌連載「RADIO PA PA」。今回は前回に続いて、長塚圭史さんが挑む「近松心中」について。
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僕が勤務しているラジオ局に面した皇居お濠端に彼岸花が咲いた。彼岸には必ず咲く。彼岸とは仏教用語で、「煩悩を脱し、涅槃に達する境地」。スタジオから眺める緋色に、これから友人、長塚圭史が演出する心中物を観に行くのだと思った。
5、6月の「王将」開催時はKAAT神奈川芸術劇場前にのぼりが立ち、1階アトリウムで上演された演目に道歩く人にも舞台の台詞が漏れ聞こえたが、今回は静謐な「近松心中物語」。圭史は秋元松代の戯曲に挑むという。秋元は三好十郎のもとで戯曲を書きはじめ、「近松心中物語」はその代表作となった。その三好十郎の「浮標(ぶい)」や「王将」(北條秀司)、「セールスマンの死」(アーサー・ミラー)にしても、圭史は時代の名作戯曲を自分の中に取り入れ、そのルーツを保持しながら因数分解し、今を生きるぼくらに差し出してくれる。それは井上ひさしの「十一ぴきのネコ」や「イーハトーボの劇列車」も同様だ。
「僕は秋元さんの台詞に魅せられていて、近松(門左衛門)の生み出した台詞に、そのまま井原西鶴の原文アイディアが盛り込まれていたり。そんな秋元さんの詞に、今回はスチャダラパーさんの音楽がついて、時代を超えたミックスを堪能していただけます」。開演を待つ間、劇場季刊誌に載った圭史の言葉に目を通す。
元禄時代の大阪・新町。真面目一方の飛脚屋、忠兵衛は遊女梅川と恋に落ちる。しかし、梅川にはある大尽から身請けの話が。それに対抗し、親友与兵衛に身請けの手付金を借り、武家屋敷に届けるはずの三百両にも手を付け梅川を引き取る。公金横領という犯罪はお上の知るところとなり……。
「厳しい身分制度のあった時代、炎のような恋をすることで血肉の通った人間性を取り戻す忠兵衛と梅川、そしてその恋の飛び火から思いがけない顛末を迎える箱入り娘のお亀と世の中を見つめるその夫与兵衛。うら若き4人の儚い生き様は、全く新しい形で日々息苦しさを増す現在に如何に響くのか」と圭史は語る。