俳優 松崎悠希さん/ハリウッドと日本を拠点に活動。主な出演作に「ラスト
俳優 松崎悠希さん/ハリウッドと日本を拠点に活動。主な出演作に「ラスト サムライ」「硫黄島からの手紙」「ピンクパンサー2」など

 たとえば日本のテレビ局や動画配信大手などが「ハラスメントを許さない」という宣言を公にし、「これやったらあなたはクビになりますよ」という指標を示すことで、抑止力を生み、業界を健全化できるのですが、なぜかそれをしない。

 演劇界でも、たとえば「青年団」は独自のハラスメント規定が内部にありますが、それを「私たちのハラスメントの基準はこうです」と公にし、共有すべきだと思うんです。そうすれば、大きな影響を受けている全国の中小劇団がその指標を守ろうとするでしょう。公に宣言し、自分たちの指標を外部とも共有することによって、守られる人がいるんです。それをしないのは、自分たちの置かれている状況や、持つ責任を理解していないと言わざるを得ません。

 コンセンサスがないことは、セクハラに対する自浄作用が働かないことにもつながります。自浄作用が腐った状態を放置してきたことが、セクハラをこれまで何十年も許してきた理由です。業界にいる一人ひとりに、人生を壊された俳優たちへの責任がある。にもかかわらず、自分はハラスメントしてないから関係ないとか、自分も腐った業界の一員だと思われるのは受け入れ難いとか、あるいは自分も「心当たり」がある人たち同士で「これがセクハラなら自分もやばい」と加害者側と連帯したりすることも。それが現実です。

 いま、私を含めて声を上げ始めた俳優たちがいます。映画業界の構造上、俳優の立場はものすごく弱い。発言することで、その俳優自身に起こりうる不利益があまりに大きすぎるんです。それでも満身創痍で声を上げ始めたのは、「いまそうしなければ、自分たちが生きているこの地獄が、次の世代まで続いてしまう」という危機感と自覚があるから。もう、セクハラは絶対に許されない時代です。テレビ局や映画スタジオ、劇団など業界全体が、そのことを心して認識してほしいと思います。

(構成/編集部・小長光哲郎)

AERA 2022年11月21日号

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