
ユーザーの健康や安全より利益を優先している──。世界30億人が利用する フェイスブック元社員が内部告発し糾弾した。巨大企業の社会的責任が問われている。AERA 2021年10月25日号の記事から。
* * *
フェイスブック傘下の写真共有アプリ、インスタグラムで、一度でもエクササイズの投稿をいいねすると、タイムラインに関連アカウントや広告が表示されるようになる。自分の体形とはかけ離れた割れた腹筋、くびれたウエスト、鹿のような足の映像が、タイムラインにこれでもかと出てくる。
「10代の少女の32%は、自分の体形に不満を感じている時にインスタグラムを見ると、さらに自己嫌悪感が強まると話している」
と報告するのは、2020年3月にフェイスブックの内部メッセージボードに貼られたスライド。別の社内プレゼンでは、自殺願望を報告している10代の若い人のうち、英国ユーザーの13%、米国ユーザーの6%が、原因はインスタグラムとしている(ウォールストリート・ジャーナル=WSJによる)。しかし、若い人を体形コンプレックスと自殺願望に陥れる「自動推奨システム」は、今も続いている。
■道徳的に破綻している
フェイスブック社内だけで共有されていたこれらの文書を公にして内部告発したのは、同社を今年5月に退社したばかりの元社員、フランシス・ホーゲンさん(37)だ。ホーゲンさんは、グーグルや画像共有サービス「ピンタレスト」などでアルゴリズムの担当として勤務後、19年にフェイスブックに入社した。
内部告発したのは、「利用者の健康や安全性について綿密な調査と報告がされていたにもかかわらず、無視されてきた」と感じたためだという。彼女は、数万点に及ぶ内部の報告やプレゼン資料をWSJに提供。同紙は9月13日を皮切りに、大型特集で告発内容を報道した。
同紙はさらに、「インスタグラムが他のソーシャルメディアに比べ、10代の若者に精神的苦痛を引き起こす傾向が過度に強い、とフェイスブックでさえ信じるに足る理由がある」と批判した。
反響は素早かった。WSJが告発を報道し始めてから10月1日までに、フェイスブックの株価は約9%下落した。10月5日には、上院の消費者保護に関する小委員会がホーゲンさんを呼んで、詳細な証言を得ている。ホーゲンさんはこの中で、
「フェイスブックが選択してきたことは、子どもと民主主義にとって、破滅的だ」
「今回の危機の深刻さは、過去にあった規制の枠組みから脱却しなければならないことを示している」
と熱心に訴えた。