
半世紀ほど前に出会った99歳と85歳。人生の妙味を知る老親友の瀬戸内寂聴さんと横尾忠則さんが、往復書簡でとっておきのナイショ話を披露しあう。
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◆横尾忠則「僕の家事は絵を描くことです」

ピンチヒッターというより、リリーフピッチャーのまなほ君へ。
また変化球を投げてきましたね。ハイ、絵以外全てニガ手です。料理も運動も大嫌いです。本当は絵も嫌いなんですよ。好きなものといえば、猫とぜんざいかな。料理は神戸でお好み焼屋に下宿していたので、それくらいはできます。運動音痴で鉄棒の尻上がりも、跳び箱もできません。マラソンを見るくらいです。
料理なんてとんでもないことです。僕は古い日本男子なので男は台所に入るな、と、まるで武士道精神で生きてきた日本人(ハッハッハッ)です。僕の家事は絵を描くことです。やっぱりそういう男のところには、料理や家事の得意なヒトがくるもんです(エヘン)。子供が生まれた時も、一度も風呂に入れたことがありません。おむつを取り替えるなんて、武士のやることではないです。(絵描きは武士です)
それと、運動ですか。そんなシンドイことやりますかいな。絵はスポーツだから、描くことで充分運動しています。だから絵は肉体というでしょ。
セトウチさんの手料理を食べたか? 返事はノーです。いつも伺うとぜんざいが出ますが、これはスタッフの方が作られたぜんざいです。一度こんなことがありました。
「ヨコーさん、大福を取っといたわよ」
「ヘェー」、(本当は大福よりおはぎの方が好物)だけどここはヘェーと喜んだふり。
「ヨコーさんに大福チンしたげてェ」
「エー、ドーイウコト?」
「冷凍庫で冷やしているので、チンして温めてあげてェ」
大福を冷凍すること自体間違っている。それをさらにチンするなんてトンデモない。主婦の経験のない人のやることだ。スタッフもセトウチさんに言われた通りにする。誰も異議申し立てしないで、言われた通り、これはソンタクじゃ。