延命処置に関しては、「このときを限界と判断して、救急車を呼ばない」というラインを明確にしておくとよい。つまり、延命、救命をどこまで望むのかという判断だ。本人はもちろん家族にとっても難しい判断となるため、事前に訪問看護師や在宅医に相談したい。急に容体が悪化した場合は、「救急車を呼んで、できる限りの治療をしてもらいたい」というのがごく普通の心理ではあるが、その一方で無理な延命処置の結果、「命は助かっても、意識は戻らない」という状態に陥ってしまうこともある。

 また、慌てた家族が救急車を呼んでしまっても、すでに心肺停止状態や死亡している場合には救急搬送してもらえず、警察の検視になってしまう場合も。さらに病院に救急搬送されて心肺停止状態だった場合には、病院医師が死亡診断してくれず、在宅医が、霊安室や警察検視室に呼ばれて死亡診断するというケースもあるという。

「救急車を呼ぶ=延命措置を望むということ。これをしっかり理解してから119番通報する必要があります。在宅での看取りに際しては、今後起こりうる体の変化や死にゆく過程を看護師や医師に聞いておくこと。そうすれば旅立ちのときには、落ち着いてお別れすることができる。ゆっくりお別れをした後で、訪問看護師や在宅医に連絡して死亡診断してもらえばいい」(兵庫県で家での看取りを25年にわたって支援し続けているさくらいクリニック院長の桜井隆医師)

 在宅療養は、入院や通院に比べると、医療者に「お任せします」では成り立たない世界が、そこにはある。突っ込んで知ろうとし、踏み込んで希望をかなえようとする姿勢、すなわち“患者力”が大きく試されるとも言える。やってみて難しいと思ったら、その時点で入院に切り替えることもできる。本人が満足のいく最期が過ごせたら、家族もきっと達成感がある。大切な人の希望をかなえるための選択肢として、考えてみてはどうだろう。(フリーランス記者・松岡かすみ)

週刊朝日  2021年10月29日号より抜粋

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松岡かすみ

松岡かすみ

松岡かすみ(まつおか・かすみ) 1986年、高知県生まれ。同志社大学文学部卒業。PR会社、宣伝会議を経て、2015年より「週刊朝日」編集部記者。2021年からフリーランス記者として、雑誌や書籍、ウェブメディアなどの分野で活動。

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