
しばらくすると、息子は下校後にパソコンに向かうようになった。ヘッドホンをして何かを楽しそうにしゃべっている。
「何してるの?」
とのぞき込むと、なんと友だちとウェブ会議をしていた。
ズームと似たグーグルミートというウェブ会議のシステムがある。これでいろいろな友だちと遊んでいるのだ。アメリカでは、12歳以下は子どもだけで公園で遊ぶことはできない。さらに広域通学している日本人学校の子どもたちは、それぞれの家が遠くて集えない。だから、オンラインで遊ぶのだ。
「Jくんのミートコードおしえて!」
「ログインしてみんなでチャットしようぜ!」
私もコロナ禍で、ウェブ会議には相当慣れた。でも、息子の口から次々に出てくるウェブ関連用語には驚愕(きょうがく)した。さすがに10歳がウェブ会議で遊ぶなんて想定外だ。
ある日、ものすごく変な時間に子どもウェブ会議が始まった。理由を聞くと、
「今日はベルギーに合わせるんだよ。3月にベルギーに転校しちゃった友だちが参加するためだよ。あっちは日本人学校じゃないから寂しいでしょ?」
渡米をあんなに不安がっていた息子なのに、たった数カ月のニューヨーク生活でこの余裕。
「君たちは国際的なビジネスマンか!」
そう思わず突っ込んだ。
そして、息子の子どもウェブ会議は、日米の国境も軽々と越えた。
「今から入るぞ! いけ! そっち、そっち!」
毎週金曜と土曜の夜、午後10時から我が家のリビングには、息子のゲームする声が響きわたる。こんな遅い時間になぜやっているかというと、日本の友だちとやっているからだ。ニューヨークの午後10時は日本の翌日の正午ごろ。日本のお友だちと関係が切れないように、日本で禁止していたオンラインゲームを解禁したのだ。もちろん、やる時間やゲームをする相手は厳重に「管理」している。
息子たちがはまっているのは大ヒットゲームのスプラトゥーン。マンハッタンにも任天堂のショップがあって、そこで行列して息子がお小遣いをはたいて買った。要は色を塗り合う陣地取りの対戦型ゲームで、世界のどこからでも同じタイミングでサインインすれば、友人とチームを組めるのだ。説明しながらも私はシステムがよくわかっていない……。
「ゆうたは同じチームだ」
「おうちゃんは入った?」
と、ニューヨークと京都に、何万キロも離れているとは思えない会話が延々と続く。
ゲームやオンラインは、国境を超えるのだと、本当に痛感している。
ちなみに、日本の友だちとオンラインゲームする時の定番の質問は、
「今、そっちは朝なの? 夜なの?」
窓の外の暗さを見せると、
「すごいな、日本は朝なのに、おまえは夜にいるのか?」
さすがのデジタルネイティブたちも、時差にはめちゃくちゃ驚いてくれる。
子どもらしくてちょっと安心するのは、わたしだけだろうか。
※AERAオンライン限定記事

