AERAの将棋連載「棋承転結」では、当代を代表する人気棋士らが月替わりで登場します。毎回一つのテーマについて語ってもらい、棋士たちの発想の秘密や思考法のヒントを探ります。渡辺明三冠(名人、棋王、王将)、森内俊之九段(十八世名人資格者)、「初代女流名人」の蛸島彰子女流六段らに続く8人目は、「攻める大和撫子」の山口恵梨子女流二段です。発売中のAERA 11月8日号に掲載したインタビューのテーマは「影響を受けた人」。
* * *
「ハンマー振り回して、飛んでったら終わり」
山口恵梨子は他者から、そうからかわれたことがあるという。山口はまだタイトル獲得の経験などはない。しかしそのハンマーが当たれば、どんな強敵をもなぎ倒す破壊力を秘めている。
「攻める大和撫子」
とは山口の特徴をよく表す秀逸なキャッチフレーズだ。
「でも三十路が近づいて、あまり言われなくなってきました(苦笑)」
山口はちょうど30歳になったばかり。将棋界屈指の人気女流棋士であり、普及活動にも積極的にたずさわってきた。そしてプレーヤーとしても着実に実績を残している。
女流棋界の頂点に立つ西山朋佳女流四冠(26)も、過去の対山口戦は0勝2敗。そうした理由で、西山は女流ABEMAトーナメント(団体戦)のチームメンバーに、強豪の上田初美女流四段(32)とともに、山口に白羽の矢を立てた。山口は言う。
「以前から本当に西山さんの人柄が大好きでした。だから今回、指名していただけたのはうれしかったです。ABEMAトーナメントでは、私はこれまで司会で関わることが多かったんです。今回、初めて実際に対局者にさせていただき、貴重な経験をしました。トップ女流棋士の方を目の当たりにして、自分に何が足りないのか、わかったような気がしました」
「具体的には、西山さんは実戦対局で積み重ねた経験値の多さをすごく大事にされています。私は経験値よりも知識を大事にしていました。将棋の勉強法は昔から棋譜並べ、詰将棋、実戦があります。そして最近は将棋ソフト(AI)による研究が加わった。私自身は相手がいなくてもできるソフト研究に重きを置いていたんです。でもやっぱり、指すことの大切さがあるんだなと。知った気になっているだけで、自分の身になっていないことがこんなに多いのかと思いました」
西山はかつて奨励会に所属。史上初の「女性棋士」を目指し、あともう一歩というところまで迫った過去がある。以前から山口は、研究会で西山に接する機会はあった。
「レベル差がすごくあったにもかかわらず、研究会で指していただけたのはありがたかったです。西山さん、すごくいい人ですよ。将棋界全体のことも考え、自分が強くなるためにどうすればいいのかも考えてらっしゃる。全てに対して真摯だと思います」
(構成/ライター・松本博文)
※1日発売のAERA2021年11月8日号では、山口恵梨子女流二段がチーム西山や監督の藤井猛九段(51)についても語っています。