
■さらに3機を開発中
NASAは21年12月、アクシオム・ステーションに続いて、新たに3機の民間プランを選定した。入札したのは、ジェフ・ベゾス氏率いるブルーオリジン社、ボイジャー・スペース社、ノースロップ・グラマン社。この3社にはステーションの基礎設計料として総額4億1560万ドルが資金提供されている。
アメリカは、ISS後継機の開発を民間に託す方針をとっている。在米企業からプランを募り、NASAが選定した企業には資金を提供し、完成後の運用もこれら民間企業が行う。こうした民営化は有人宇宙船、ISS補給機、月面着陸機、月面ローバーなど、あらゆる宇宙機材の開発で進められている。
プランの選定は開発途上の各段階で行われるため、結果的に何機のステーションが打ち上げられるかは不明だ。ただし、この3機すべてが有用とされた場合、アメリカは30年ごろまでに計4機の民間ステーションを打ち上げることになる。その運営は、NASA、研究組織、大学、企業などがテナント(モジュール)をレンタルすることで維持され、その運用企業をサポートすることになる。
NASAがISS後継機、つまり地球周回軌道の新ステーションを民間に託すのは、「アルテミス計画」に注力するためでもある。月と火星へヒトを送り込む同計画の一環として、NASAは月軌道周回ステーション「ゲートウェイ」を建設するが、その着工は27年の可能性が高い。ちなみに同計画には日本も参加、JAXAの居住モジュールも接続する予定だ。

■高まる需要
現在、ISSでは多種多様な実験が行われている。微小重力環境ではたんぱく質の結晶が均一化され、地上では再現できない混合物(混晶)も生成できる。前者は新薬、後者は半導体などの高速電子デバイスの開発に欠かせない。そのほかにも太陽光発電機やバッテリー、高速通信の実証試験などが行われている。
また、今後さらに長期化するクルーの宇宙滞在に向け、宇宙医学、宇宙野菜の研究も進む。恒常的に軌道上にある宇宙ステーションは、宇宙船から月面着陸機にトランジットするための、ターミナルの役目も果たす。
つまり、宇宙ステーションが担う役割は多く、その需要は高まるばかり。もはや我々の生活やビジネスに欠かせない。宇宙ステーションというインフラを整えることは、国家の覇権強化にも直接的につながっている。
こうした動機から、各国各社はいま、宇宙ステーション建設を急務としている。その結果、ポストISSの宇宙には、過去半世紀とはまるで違う国際バランスが創出されることになる。(編集/ライター・鈴木喜生)
※AERA 2023年1月30日号