「アクシオム・ステーション」の客室。ひとつのモジュールに4部屋完備。フランスのフィリップ・スタルク氏がデザインを手掛ける(illustration Axiom Space)

 かつて中国は、ISS計画に参加する意思をアメリカに申し入れたこともある。しかし、技術漏洩を危惧したアメリカは、宇宙開発において中国を一貫して排除し続けた。結果、宇宙で孤立した中国は、有人宇宙船(03年)、宇宙遊泳(08年)、独自ステーションの建設(11年)などを独力かつ驚異的なスピードで成功させてきた。つまり、アメリカの対中政策が、中国宇宙開発を促進させたともいえる。中国は、天宮によって微小重力環境における研究の遅れを取り戻すとともに、宇宙における覇権拡大を図ろうとしている。

 また、中国とロシアは21年3月、月面研究基地「国際月科学研究ステーション」の建設で協力することを、国連宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)の場で発表している。かつてロシアは米国主導の月軌道ステーション「ゲートウェイ」の建設に参加する予定だったが、米国の意向が強すぎるとして不参加を表明。タッグを組む相手を中国に乗り換えている。

■日本ベンチャーの挑戦

 天宮の完成が報じられて間もない昨年12月、日本の宇宙ベンチャー「デジタルブラスト」(東京都千代田区)が、「民間宇宙ステーション構想」を発表した。実現すれば日本初の独自かつ民間のステーションとなる。

 機体は居住用、科学用、エンタメ用の三つのモジュールで構成され、最初のモジュールは30年までの打ち上げを目指す。科学用モジュールは大学、研究施設、官公庁、民間企業などの利用が見込まれ、エンタメ用モジュールは、スポーツ、ホテル、撮影スタジオなどに使用。一般消費者を対象としたVRやメタバースの活用も想定されている。

 建設費用は3千億~5千億円と試算。後述するアメリカとは違い、その予算は民間で賄う予定のため、同社はパートナー企業を募りつつ、この日本独自ステーションの建設に挑むことになる。

 アメリカでは現在、ISSの後継機として4機のステーション開発が進んでいる。その1機目となる「アクシオム・ステーション」は、26年の建設開始が見込まれている。

 史上初の民間宇宙ステーションとなるこの機体は、四つのモジュールで構成される。その建設方法はユニークで、まずは最初のモジュールをISSの機首にドッキングし、そこに残り三つを接続して完成させる。

 二つのモジュールには客室があり、眺望豊かな窓、モニター、高速Wi-Fiなどを完備。つまり同機は史上初の宇宙ホテルにもなる。ISSが退役する際にはこのアクシオム・ステーションだけを切り離し、軌道上で単独運用する予定だ。

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