またNPBではFA選手獲得に人的補償が付随するため、実質的にトレードに近い制度となっている。クオリファイイング・オファーに伴うドラフト指名権の譲渡を除けばFA選手獲得に見返りを必要としないMLBと比べると、この点もFA移籍のハードルを上げる要因となっている。資格取得までの期間短縮と人的補償の問題を解決しない限り、今後もNPBでFA移籍が活発化することはないのではないだろうか。

 話をMLBに戻すと、契約満了がすなわちFA=移籍の自由化を意味するため、最近は有望な若手がFA権を得る前に長期契約を結んで囲い込みを図る球団も増えてきた。ホワイトソックスは19年にメジャーデビュー前のイーロイ・ヒメネス外野手と異例の6年総額4300万ドルで契約し、20年にもやはりメジャーデビュー前のルイス・ロベルト外野手と6年総額5000万ドルで契約している。

 2人との契約はいずれも球団が行使権を持つ2年の契約オプション付きで、これが意味するところはFAとなる時期を後ろ倒しにすることと、メジャー3年目のオフから発生するはずだった年俸調停権による年俸高騰の回避。つまり究極の青田買いで早期のFA流出と高額年俸化リスクを排除したということだ。

 なお今年2月にはパドレスがフェルナンド・タティスJr.内野手とMLB史上最長契約となる14年、総額3億4000万ドルで契約したことが日本でも大きく取り上げられた。この時点でタティスはメジャー2年目を終えたばかりの22歳だったことを思えば、これはさすがにMLBでも異例中の異例の契約と言っていい。

 しかもパドレスは前述のマチャドとの10年3億ドルの契約をすでに抱えていることもあり、特に25年から28年までは2人の年俸だけで5000万ドルから5500万ドルを必要とする。ちなみに20年の総年俸額がメジャー最下位だったパイレーツは全員で約5400万ドルだった。1球団の総年俸に匹敵する額を2人だけで占めることに対する懸念の声はすでに米メディアからも上がっている。ひと握りの大物選手が総年俸額の大半を占める弊害は、投手力強化にリソースを割けない近年のエンゼルスを見ても明らかだからだ。

 ただ、タティスほど大型の長期契約とまではいかずとも、ホワイトソックスがヒメネスやロベルトと結んだレベルの契約を若手有望株と結ぶケースは今後も増えていくかもしれない。特に大物FAを引き留めることも、争奪戦に加わることも難しい財政規模の球団にとってはリスクを取ってでもやる価値はある。今オフはカルロス・コレア(アストロズ)やトレバー・ストーリー(ロッキーズ)ら多くの大物遊撃手がFAとなることが注目されているMLBだが、今後はNPBとは違った意味で大物FAの長期契約は少なくなっていくのかもしれない。(文・杉山貴宏)

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