AERA2022年11月14日号より
AERA2022年11月14日号より

■合間にシリアスな現実

 今年10月に亡くなった津原泰水さんの『11 eleven』は、11編の短編集。その一つ一つの話が、日常を離れて異界へ訪れるような面白さがあります。異形の体を見せ物にして暮らしている一家が、怪物「くだん」を探しに行く「五色の舟」、亡くなった娘の足跡を、遺品である延長コードから父親がたどる「延長コード」など。11編の物語はあらゆる次元を行き来し、時代も国も変われば、世界観も文体も変わります。物語は一筋縄では進みませんし、予想通りの結末にはなりませんが、この裏切られる感じも心地よいです。

 詩人のマーサ・ナカムラさんの作風は、動物と人間の境が溶け合っているような、柳田国男の『遠野物語』のような世界を詩のベースにされています。『雨をよぶ灯台』も異世界に誘われるような詩集である一方で、「いくら綺麗(きれい)に化粧をしても/自己制裁が私の顔貌(かおかたち)を変えてしまう/これは自己制裁の道である/上役に笑いながら酌をする/上役が『もっと笑いなさい』と言う/私は男の顔を鏡のように覗き込んだ」(「小さな幻影と大きな幻影を追う」)のような一節があります。いくら綺麗に化粧をしたとしても、自己処罰的な感覚に襲われる。でもそれは、もっと笑えと圧をかける上司がいるからだということ。不思議な世界観の合間に、このようなシリアスな現実を表す言葉も入ってくるので、ドキッとさせられ、非常に引き込まれます。

(構成/編集部・大川恵実)

■日常を忘れられる

鬱屈感の表現が非常に美しい
『パリの砂漠、東京の蜃気楼』/金原ひとみ/ホーム社

フェミニズム小説としても楽しめる
『クイーンズ・ギャンビット』/ウォルター・テヴィス・著、小澤身和子・訳/新潮文庫

『職業欄はエスパー』/森達也/角川文庫

『11 eleven』/津原泰水/河出文庫

『雨をよぶ灯台』/マーサ・ナカムラ/思潮社

AERA 2022年11月14日号

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