元朝日新聞記者 稲垣えみ子
元朝日新聞記者 稲垣えみ子
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 元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

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 選挙。皆様いかがお過ごしでしたか。私は元気ナシ。多くの候補が今更「コロナから国民を守る!」(今まで何をしてたので?)と言い、自分の財布でもないのにお金をバラ撒(ま)く公約を掲げるのに日々ガックリ。お手軽すぎる。バカにされている感じしかしない。政策どうこう以前に、人でなく票としてしか見られてない感じ。投票に行かなきゃ世の中変わらないと言われるし私だってそう思いたいが、これでは選挙で何かがよくなると思うのは相当な力技だと泣き言を言いたくなった。

 ……とモヤつく日々の中で、そんな我らがジャパンから遠く離れたアフガニスタンの医療活動と灌漑(かんがい)水利事業を支援する「ペシャワール会」の会報が届いた。

 タリバン政権復活で活動はどうなったか、気になりつつ細々と寄付をしていたんだが、会が活動する農村地帯では大きな混乱もなくバザールが復活するなど日常の暮らしが戻っているそうだ。コロナ感染拡大や大干ばつによる食料不足という緊急の課題に向け活動を再開しつつあるとのこと。まずは良かった。

 でも状況はまだ不安定なはずで、そんな中でもできることをやろうとする人たちに圧倒される。しかし政治はどうあれ暮らしは続くのだ。というか、暮らしをみんなで大事に作り上げていくところから政治が生まれるのかもしれない。

会報には干ばつに襲われた農地の写真が。原因が地球温暖化なら、我らにもできることがある(写真:本人提供)
会報には干ばつに襲われた農地の写真が。原因が地球温暖化なら、我らにもできることがある(写真:本人提供)

 紹介されていた、前現地代表の故中村哲医師の詩。

「自然相手は、ただ根気/何があっても ただ水やり/褒められてもくさされても ただ水やり/誰が去っても倒れても ただ水やり/嬉(うれ)しくても疲れていても ただ水やり/風が吹いても日照りでも ただ水やり/邪魔されても協力されても ただ水やり/誰がなんと言おうと ただ水やり/魔法の薬はありません」

 ガツンときた。なるほど何かを変えたきゃまず自分がここまでやって、初めて何かが変わるのだ。1回投票したくらいで世の中変わるものか。それでも投票に行く。それが投票。そう思ったらちょっと元気が出た。

稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

AERA 2021年11月8日号