日常から逃れたいなら、非日常を味わえる読書がおすすめ。この秋、一冊の本を手にし、未知なる世界の扉を開けてみてはいかがだろう。「少女漫画」の奥深い世界を、女子マンガ研究家の小田真琴さんが本を紹介する。2022年11月14日号の記事から。
■少女漫画は女性だけのものにあらず
女子マンガ研究家・小田真琴さん「人生の多様性に触れられる」
いわゆる「少女漫画」雑誌のピークは1990年代前半で、93年には「りぼん」(集英社)の発行部数は255万部にもなります。その後、勢いこそ落ちますが、読者が消えたわけではありません。かつて少女だった読者たちは成長し、漫画を読み続けています。
これに伴い、大人の女性に向けた漫画が増え、恋愛一辺倒ではなくなりました。2000年代には『働きマン』(安野モヨコ)のように、働く女性をテーマにした作品が流行しました。現在は、健康や趣味をテーマにした作品もあり、多様化しています。
『あした死ぬには、』は、更年期の女性を描いた作品です。恋愛要素もありますが、相手もがんの闘病中で、中高年層に響く内容になっています。漫画を読む世代が、死を切実に意識するような年代になったからこそ生まれた作品だと考えます。
社会問題を扱う作品も増えています。『大邱の夜、ソウルの夜』はフェミニズムに基づき韓国の強い家父長制を描きつつ、女同士の関係性もよく描いています。
社会における女性の生きざまを描いた作品としては、現代の中東やインド、モロッコ、日本の女性を描いた『女の子がいる場所は』、13世紀のモンゴル帝国の奴隷になった女性の生きざまを描いた『天幕のジャードゥーガル』があります。描かれ方は違えど、現代の日本の女性差別についても考えさせられます。
少女漫画は、女性だけのものではありません。「週刊少年ジャンプ」の読者に女性が少なくないように、性別でのすみ分けはなくなりつつあります。書き手も同様で、女性作家による少年漫画『黄泉のツガイ』も王道感ある内容で男女ともに楽しめます。一度、お手に取ってみてはいかがでしょうか。
(構成/ライター・河嶌太郎)