落語家・春風亭一之輔さんが週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「番宣」。
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今週も編集担当K(妙齢女性)からお題を提示され、ちょっと不思議に思ったので「なんで『番宣』なんですか?」と聞いてみた。Kいわく「よく耳にしますよね、最近」。しねえよ。よく? 最近? 「べつに最近の流行り言葉ってわけじゃないでしょ? 『番宣』だとテレビやラジオ番組の告知に限られちゃって間口が狭くなりませんかね? だったら『宣伝』とかのほうが書きやすいなぁ」と私。「『宣伝』だと生々しくなっちゃいますから」「『生々しい』って?」「いや、ほら、発売されてすぐのお題が『宣伝』だとあからさますぎて……ですので、テーマは『番宣』くらいにしといて、最終的にそのへんに着地するというのは……どうでしょう?」
言いたいことはわかった。1月20日に発売された、この連載をまとめた新刊『まくらの森の満開の下』の宣伝を、今週回で私に自らさせようという魂胆だ。それを直に指図するといやらしいから、わざわざ『番宣』なんてオブラートにくるんで私をその方向に誘導しようという……。
ハッキリ言えばいい。「宣伝しましょう!」って。私だって本が売れるためなら多少の苦労は厭わない。こないだも書店に納入するためにメチャクチャサインをしたじゃないか。その数、500冊。多いか少ないかわからないけど、自分史上「一度に入れたサイン本冊数」では一番多かった。会議室のテーブルに積まれた500冊はさながら「SASUKE」の「そり立つ壁」。いや無理ですって!と思わず声が出た。
「大丈夫ですよ! ハイこれ!」とペンを渡され、椅子に座らされ、息をつく間も無く、わんこそばの要領で開いた新刊本が目の前に置かれる。いつも色紙にサインするのと同じ感覚で簡単なイラストと「春風亭一之輔」とサインを入れる。このイラストは「丸い顔の着物姿の落語家くん」をイメージしたモノなのだが、開始10分で後悔。これ、イラスト要らねえな。最初から描かなければ半分は時間短縮できた。もう描いちゃったものな。途中でやめるのも買ってくれる方に申し訳ない。ていうか「春風亭一之輔」って漢字でフルネームも要らなかったな。「いちのすけ」だけならどんなに高速で書けることか。自分の律義さを呪う。