おひとりさまの遺産整理が進まない背景には、費用負担の問題があると加藤さんは指摘する。法定相続人がいない場合、故人の財産は、最終的には国庫に帰属する。しかしそのためには、戸籍確認のほか、家庭裁判所で「相続財産管理人」(故人の財産などを代理で管理する者)を選任するといった手続きが必要になる。管理費用を先に納めなければならないケースもあり、手続きを専門家に依頼すると100万円単位での出費となることもある。
「問題は、その費用が遺産額によっては依頼人の持ち出しになってしまうという点です。法定相続人でなくとも、『特別縁故者』として認められれば財産を分けてもらえますが、これはかなりハードルが高い。認められるのは、故人の財産形成に寄与した場合などで、生前に親しかった、少し世話をしたという理由だけでは通りません。そのため依頼人が善意で財産整理をしてあげようと思っても、多額の出費を負うことになるため、そのまま放置されてしまうケースが少なくないのです」
現在、日本各地で放置された空き家が増えているのも、背景にこうした問題がある。
「おひとりさまに限りませんが、相続トラブルを防ぐためには、やはり遺言を残しておくことです。公正証書遺言がお勧めですが、自筆証書遺言でも法務局が保管してくれる制度があります。また、遺言者の希望に応じて、関係者に遺言の存在を知らせる制度もあるので、亡くなったことが認知されず手続きが長期間停滞するのを防ぐことも期待できます」
“死後に頼れる人”を生前に見つけておくことが大切だ。(ライター・澤田憲)
※週刊朝日 2021年11月26日号