
その後、弁護士から内容証明郵便を送ったことで、ようやく長女とは連絡が取れた。住民票から現住所はわかっていたため、コロナがなければ直接訪問するという手段を取ることもできたが、母親も次女も高齢で、緊急事態宣言下では難しかったと話す。
「こうした状況を鑑みて、国税庁から、相続税の申告期限の延長を認める“コロナ特例”も出されました。ただし、相続人がコロナに感染したなど、やむを得ない事情がないと認められないため、いずれにせよ通常よりも早め早めに対処していく必要があります」
一方で、コロナの影響により、こんな相続トラブルも起こり得る。
関東地方で暮らすBさん一家は、2019年12月に父親が肺がんで亡くなった。残された財産は、不動産(持ち家)と預貯金3千万円、父親が運用していた株式(時価1千万円)だ。遺族である母親と兄弟2人で遺産分割協議を行った結果、母親が不動産、長男が預貯金2千万円、残りの預貯金1千万円と株式を次男が相続することに。
ところが20年3月に国内で新型コロナの感染が拡大し始めると、株価が大暴落。次男が相続した株式の時価は、コロナ前の4分の1にまで下落してしまった。慌てた次男は、「株価の暴落は予測できず、遺産分割の方法が不公平だ」と、協議のやり直しを主張する。しかし財産の名義変更が完了していたことから、母親と長男は話し合いに応じず、家庭内トラブルに発展したという。
加藤さんは、「コロナに限らず、相続で最もトラブルが起こりやすいのが、遺産の分配方法。特に値動きのある株式など有価証券がある場合は注意が必要です」と話す。
◆遺産相続進まず うつ病を発症
「遺産分割協議が終わっても、当事者全員の合意があれば、再度の話し合いは可能です。ただし、『相続人間で贈与があった』と税務署に判断され、贈与税が課されるリスクはあります。財産の名義変更まで済ませている場合は、やり直しに想定外の手間や費用も発生するので注意が必要です」