「こんな置き方したらわし盗めてしまうでぇ!」
11月8日に出版されたお笑いコンビ・かが屋の加賀翔による小説『おおあんごう』(講談社)は、こんな一文から始まる。岡山の田舎で暮らす主人公の少年の父親が、ドラッグストアの店先にある商品棚を見て言い放ったセリフだ。
主人公はこの粗暴な父親に振り回され、抑圧を感じながら過酷な日々を過ごすことになる。実際に岡山で生まれ育った加賀の実体験をベースにした作品だ。作中で登場人物が発する岡山弁のセリフの数々が印象に残る。タイトルの「おおあんごう」というのも父親がよく使っていたという岡山弁の言葉である。
かが屋はコントを専門にしている。普段はそこまで方言を売りにしているわけではないが、ネタの中には加賀が岡山弁を使うものもある。方言を用いることで、独特の温かみや泥臭さがかもし出される効果がある。
数年前に比べると、世間の人々の岡山弁に対する違和感は少なくなっている気がする。そういう状況になったのは千鳥のおかげだろう。2人とも岡山出身のお笑いコンビ・千鳥がテレビの人気者になり、彼らの岡山弁を人々が耳にする機会が増えたことで、それがどんどん世間にも浸透していった。
千鳥はもともとそこまで強く方言を押し出したコンビではなかった。大悟の方は以前から方言が強めの話し方をしていたが、ノブがそれを強調するようになったのはデビューから数年経ってからのことだ。
ノブはいつからか「◯◯じゃ」「◯◯せぃ」「◯◯すなぁ」のように、わざと誇張したような岡山弁のツッコミを多用するようになり、今ではそれが1つのスタイルとして定着した。
大阪での芸人活動が長かった千鳥の2人が使う言葉は、岡山弁と関西弁と標準語が微妙に混ざり合ったものになっている。だからこそ多くの人に聞き取りやすいのかもしれない。
千鳥の活躍に後押しされたのか、最近のお笑いコンテストなどで活躍する若手芸人の中には、岡山出身の芸人がちらほらいる。『キングオブコント』決勝に出ていたハナコの秋山寛貴、空気階段の水川かたまり、蛙亭の中野周平、『M-1グランプリ』決勝に出ていた見取り図のリリー、ウエストランドの2人、東京ホテイソンのたけるは、いずれも岡山出身である。