
そのためスポット価格は一時急騰したが、これは今回の電気料金上昇の主因ではない。もともと日本のLNG輸入は長期契約メインであり、長期LNG価格は去年、下落傾向だった。実のところ現状の値上がりは“1年以上かけて下落前のレベルまで戻りつつある過程”だという。
一方、スポットLNG価格では、国際政治の“エゴ合戦”も関わっている。
「スポットLNG価格は欧州ガス価格と相関があります。ロシアは隣国のウクライナを経由するパイプラインでドイツへガスを送っていますが、不仲なウクライナをガス通行料で潤すのはロシアの本意ではない。そこでロシアはウクライナを経ずバルト海を通ってドイツに延びる新パイプライン『ノルドストリーム2』の工事を急ぎました」
ノルドストリーム2を西側諸国にアピールするためにウクライナ経由のガス供給を“絞った”フシがある。もちろんロシアが公言したわけではないが……。
■原油高の波及止まらず
日本の長期LNG価格は原油との連動性が強く、1バレル当たりの価格に0.11~0.15を掛けた値段で取引されている。その原油価格は、不安定極まりない。もともとコロナ流行前の2019年から20年春まで1バレル=70ドル台で推移していたが、同年3月にロシアとサウジアラビアが協調減産を巡って衝突、米国の先物市場で一時マイナス価格が付いたこともある。今年は70ドルを超えて上昇し、10月に入って85ドル台を約7年ぶりに突破したばかり。当分は原油高が波及して日本のLNG輸入価格に上昇圧力が働く。遅れて日本の電気代にもはね返ってくる──。世界的な脱炭素の流れから油田開発などの設備投資が停滞し、原油生産量が増えにくいことも原油高の要因になっている。
22年4月頃にノルドストリーム2が運用を開始すれば、ロシアから欧州への供給が増え、スポットLNG価格の値下がりが予想される。ただ「日本や中国が急に寒くなれば、再上昇も考えられます」と白川さん。(経済ジャーナリスト・大場宏明、編集部・中島晶子)
>>後編【新電力に乗り換えで年1万円お得になる場合も プロ厳選「万人向けプラン」で見直しを】へ続く
※AERA 2021年12月6日号より抜粋
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