「男性と女性はやはり違う。そこをちゃんとコントロールしていくと、うまく伝わるんだなって。先輩方からの反応で勉強させてもらいました」

 大道具の仕組みなど知らないことも多かったが、素直に聞きにいった。大先輩の男性たちはわかるまで教えてくれた。「みんな、向かっているところは一緒なので。初日をあけて、いいものを作ろうって」

■戦友というか相棒

 プロデューサー、演出家、キャスト……ピラミッドがきっちりできている舞台の世界で、舞台監督は「スーパー中間管理職」だと瀧原さん。

 若い頃はすべて自分でやらなくてはと力を入れまくっていたが、今は力を抜くことが大切だと気づいたという。

「女性舞台監督が主役の舞台で、自分が舞台監督を務める」ことへの感想を聞くと、「特には……」と瀧原さん。「仕事は一本一本が勝負だと思っているので、作品うんぬんはあまり気にしません。一期一会ですから」と。

 ただし、最近の舞台の世界に目をやると、以前よりも業界が柔軟になってきているとは感じる。男性の考え方が時代と共に変化してきたこともあるが、業界に入ってくる若者が減っている中、女性の方が根性があって、定着率が高いという現実があるという。

「女性の方が踏ん張りが利いて、現実的なのではないでしょうか。『夢見ていた世界と違う』と離れていくのは男性で、女性は切り替えが早いのだと思います」

 立ち稽古が始まって2日目にインタビューした。芝居の見どころを尋ねると、

「とてもいきいきした方向に進んでいると思います。観た方が元気をもらって帰っていく。それが芝居に関わる者のやり甲斐だと思っていて、これはその最たる作品です」

 最後に北村さんの話に戻る。実際の女性舞台監督はまだまだ増えていないという。男性社会な上に体力的なことなどもあり、やめていく女性が多い。文化の最先端であってほしい演劇の世界だが、「頭抱えてびっくりするようなこと」がまだまだ多いのだと北村さん。

 それでも「女性舞台監督が主役」の舞台が成立するとはつまり、違和感なく観てもらえるということだから、時代は少しずつでも進んでいるのだろう。そう語る北村さんに、時代を共に歩んできた瀧原さんは戦友ですか? と聞いた。 

「戦友っていうか、相棒かしら。プロデューサーと舞台監督、お互いにいい相棒が見つかったら最高ですよね。はい、最高です」

 明るい声で返ってきた。(コラムニスト・矢部万紀子

AERA 2022年11月7日号

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矢部万紀子

矢部万紀子

矢部万紀子(やべまきこ)/1961年三重県生まれ/横浜育ち。コラムニスト。1983年朝日新聞社に入社、宇都宮支局、学芸部を経て「AERA」、経済部、「週刊朝日」に所属。週刊朝日で担当した松本人志著『遺書』『松本』がミリオンセラーに。「AERA」編集長代理、書籍編集部長をつとめ、2011年退社。同年シニア女性誌「いきいき(現「ハルメク」)」編集長に。2017年に(株)ハルメクを退社、フリーに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』『美智子さまという奇跡』『雅子さまの笑顔』。

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