国家権力や多数派の立場から、そうでない人たちを揶揄する風潮が見られる。どのような背景や心理があるのだろうか。AERA 2022年11月7日号の記事を紹介する。
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<座り込み抗議が誰も居なかったので、0日にした方がよくない?>
インターネット掲示板「2ちゃんねる」創設者のひろゆき(西村博之)さんが10月3日、笑いを浮かべた自らの写真とともにツイッターにそう投稿した。
その写真は「座り込み抗議3011日」と書かれた立て看板の脇で撮影された。沖縄・辺野古への米軍基地移設に反対する運動が続く基地ゲートの前だった。
ひろゆきさんのフォロワー数は200万人超。この投稿には約30万件もの「いいね」がついた。
「僕がたまらなく嫌だったのは、ひろゆきさんが『笑っていたこと』です」
こう話すのは、ジャーナリストの安田浩一さんだ。このような笑いをさまざまな場面で目にすることが増えたという。
「以前に辺野古で取材したとき、貸切バスで押しかけてきた連中が反対運動に参加している高齢者に対して、笑いながら『年寄りは臭い』などの言葉を浴びせたのを見たことがあります。外国人排斥を主張して街頭で行われる『ヘイトデモ』では、笑ってVサインをしながら在日コリアンを侮蔑する光景をよく見てきました。いずれの笑いも、真剣な怒り、生き様、言葉を無効化するんです」
■「ネット用語」の影響も
ネットの世界では「www」「草生えた」のような用語が広まっている。そうしたことも影響したのでは、と見る。
「怒った人間を軽く揶揄(やゆ)することができる言葉です。それがリアルの世界と相互乗り入れして浸透し、『笑いの作法』として日本社会を覆い尽くしてしまっている。笑いによって人をおとしめ、本気で怒って何かを訴えている人間を笑い、ちゃかすことで、自らを優位な立場に持っていくことができる。おのずと国や国会議員など権力に近い側に自分の身を置ける。そんな回路のようなものを感じます」